日本酒、酵母、発酵、6号

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美味しい日本酒をたんまりといただいた結果、やたらと日本酒について興味を持ってしまった。興味を持ったらすぐに調べずにはいられない性格で、普段は調べてハイおしまいなんだけど、むしろそういうことをブログの記事にすべきなんじゃないか?ということに今更気づいたので書いてみようかな。

興味を持つきっかけになったのは、冒頭のリンク先で紹介したお店で「新政 No. 6」というお酒が出てきたからだ。

真っ黒い一升瓶に真っ黒なラベル、大きな金文字で「6」。日本酒っぽくない。焼酎かワインのようなデザインが印象的だった。

6とは何ぞや?というのがこの話の始まりというわけであります。

ラベルには「Association Yeast NO.6 The Oldest Sake Yeast Found in 1930」と書いてある。ますます謎が深まり、興味を掻き立てられる。

直訳すると「協会(組合)酵母(イースト)No.6、1930年に発見された最古の日本酒(Sake)酵母」ということになる。

協会(組合)酵母(イースト)とは何だろうか。

その前に、酵母というものは、そもそも何であるのか。

いつも頼りになるのはWikipediaさんである。今回もまた寄付してしまおうかと思うくらい役だっている。

酵母

酵母って言葉に聞き慣れてるせいか、実際にそれが何なのか詳しく調べたことがない。酒造に欠かせないものであることはわかる。我が家にはASAHIが出している「天然素材ビール酵母 エビオス錠」なんてものが何気なく置いてある。胃腸に良いということは知ってるが、酵母とは一体何なのか。

そういえば酵母といえばパン酵母なんてものまである。

簡単に書いてしまうと、酵母(=イースト)っていうのは真核生物、つまり真菌のひとつらしい。

菌について調べてみると、実に様々な種類がある深い世界だということがわかる。菌といえば細菌(=バクテリア)を想像する人もいるだろう。ヨーグルトやヤクルトや漬物を発酵させる乳酸菌、大豆を発酵させる納豆菌、酢を作る酢酸菌などはこっちに属するそうだ。

カビや酵母は真菌類。キノコも真菌だ。

発酵

知ってる人も多いと思うけど(自分も何となく知ってた)、発酵と腐敗、実はまったく同じこと。違いは「人の役に立つかどうか」という、かなり勝手な話なんだね。

で、発酵っていうのは必ずしも微生物が必要なわけじゃなくて、たとえばお茶なんかは茶葉自身が持つ酵素で発酵するそうだ。

酵母は光合成できず、ブドウ糖やショ糖をエネルギー源にしている。それらをエタノールに分解する。つまり糖を摂取してアルコールを排出する生物ということだ。

日本酒、焼酎、醤油、味噌など、日本古来の発酵食品では、コウジカビを穀物に培養し、繁殖させた麹(こうじ)を用いて醸造を行う

酒を作るには、水・米・麹が必要なのは分かったが、コウジカビを培養?麹?

麹って何?

日本酒に使う麹は、蒸した米に「麹菌」(コウジカビの胞子)振りかけて育てたもので、米麹(こめこうじ)ともいう。麹は米に含まれるデンプンをブドウ糖に変える(糖化)。

米の主成分はデンプン(多糖類)で、そのままでは酵母がエネルギー源として利用できない。酵母のエネルギー源にするには、デンプンをブドウ糖やショ糖に変える(分解する)必要がある。

つまり「デンプン」→酵母による発酵→「アルコール」は出来ないため、
「デンプン」→米麹による糖化→「糖」→酵母による発酵→「アルコール」という流れになる。

前述したように米麹は米の上にコウジカビを振りかけて培養したものなので、コウジカビが含まれる。そのコウジカビはα-アミラーゼやグルコアミラーゼという酵素を生成する。この酵素はデンプンを分解して糖化する。

米麹にはタンパク質の分解酵素も含まれていて、タンパク質の分解によって生じたアミノ酸やペプチドが酵母の生育や完成した酒の風味に影響する。これが麹造りのポイントらしい。

余談になっちゃうけど西洋のお酒は「単発酵」らしい。単発酵というのは、たとえばワインの原料はブドウ。ブドウには当然ブドウ糖が含まれているので、デンプンを糖化する工程が必要ない。これを単発酵というのだそうだ。

東洋の場合は日本酒、焼酎、味噌、味醂、醤油などの発酵に麹が使われ、それが食文化的に複発酵文化圏、カビ文化圏などとも呼ばれる所以ともなっている。これは東南アジア - 東アジアの中高温湿潤地帯という気候上の特性から可能であった醸造法であり、微生物としての「カビ」の効果を利用したものである。

とWikipediaに書いてあった。

東洋で使われる麹菌には数々の種類があり、焼酎には白麹・黒麹(黒麹菌)・黄麹、泡盛には黒麹、紹興酒には赤麹が用いられるのが通常だが、日本酒の場合は味噌、味醂、醤油と同じく黄麹(きこうじ)(黄麹菌、黄色麹菌)が用いられる。ただし、「黄色」と言われるわりには、実際の色は緑や黄緑に近い。

また形状から分類すると、日本で用いられる麹は肉眼で見る限り米粒そのままの形をしているため、散麹(ばらこうじ)と呼ばれる。それに対して、中国など他の東洋諸国で用いられる麹は、餅麹(もちこうじ)と呼ばれ、原料となる米・麦など穀物の粉に水を加えて練り固めたものに、自然界に存在するクモノスカビ・ケカビの胞子が付着・繁殖してできるものである。

清酒酵母

酵母のなかでも日本酒(清酒)を作るための酵母を「清酒酵母」というらしい。

蔵付き酵母と家付き酵母

はじめに「蔵付き酵母」「家付き酵母」があった。

酵母は自然界に存在する。酵母菌は大気中にふわふわしてる。糖分(酵母にとって栄養源)の多い場所、つまり酒を醸造する場所には特にたくさんいる。

このふわふわした酵母を使って酒造りがはじまった。酒を造る家、つまり醸造所に住んでいる酵母を「蔵付き酵母」「家付き酵母」という。ここでは「蔵付き酵母」と呼び方を統一して話をしよう。

蔵付き酵母は付いている蔵によって違うし、ひとつの蔵に1種類の酵母しかいないわけではない。酒の味を決める要素は水の硬度なども含め複数あるが、なかでも酵母の種類は酒の性格を決める大変重要なものらしい。よくわからない酵母を使っている限り、旨い酒ができるかどうかはギャンブルみたいなものだ。

酒母造り

発酵工程に入る前に、蔵に付いている数ある酵母の中から旨い酒ができるものを特定して培養しなければならない。酵母を培養して大量に増殖させたものを酒母(しゅぼ)または酛(もと)といい、それを造る工程を「酒母造り」または「酛立て」という。

酛立て

酒母で酵母を培養する場合、空気中から雑菌や野生の酵母がふわふわと混入してくる。それらを駆逐するために「乳酸」を加える。乳酸が発酵することで酒母が酸性化し、雑菌や野生酵母が死んでいくというわけだ。乳酸を直接加える方法を「速醸酛(そくじょうもと)」という。

乳酸を使用せずに、もともと蔵や自然のなかに生息している天然の「乳酸菌」を使う方法がある。乳酸菌に乳酸を作らせるというわけだ。「生酛(きもと)」「山廃酛(やまはいもと)」といった方法がある。

蔵付き酵母の培養

人為的な方法で、蔵の中で酵母がたくさんいそうな場所(柱とか梁とか)から採取して、培養する方法がある。うまく酵母菌が培養できたら成功だ。蔵に付いていた菌だから、これが「培養された蔵付き酵母」ということになる。

協会系酵母(きょうかい酵母)

ここでやっと、冒頭に出てきた「協会酵母」の話になる。

調べたところによると、1911年(明治44年)に「全国新酒鑑評会」が始まった。この鑑評会で優秀であると評価された酵母(醸造特性が優秀であると評価され、選抜された種)を、醸造協会(現在の日本醸造協会)が分離、固定し、純粋培養した。それらの酵母に番号が付けられていて、冒頭の「新政 No. 6」という日本酒は、きょうかい酵母の第6号が使われている、ということだ。協会がなぜこのようなことをしたのかというと、全国の酒蔵に高品質な酵母を頒布して旨い酒をどんどん作ろうぜという仕組みらしい。

6号酵母の登場

新政 No. 6」のラベルにある「Association Yeast NO.6 The Oldest Sake Yeast Found in 1930」が示す通り、1930年にできた酵母が6号酵母。

秋田の「新政」の蔵で旨い酒ができた。その酒を「発酵」させた酵母を日本醸造協会が固定・培養した。これが協会6号酵母。

つまり、きょうかい酵母は6号とか9号とか人造人間みたいな番号が付いているけど決して遺伝子工学とかで合成されたものではなく、きちんとしたルーツがあるのだ。6号酵母はもともと、新政の蔵付き酵母だったのだ。

1号から5号までは変性してしまったため、今は作られていない。そのため6号が現時点では「The Oldest」な協会系酵母なんだね。

6号酵母は発見・培養されてから80年以上変性せずに今でも多くのお酒に使われている奇跡の酵母なんだそうだ。

調べれば調べるほど、日本の酒造の歴史に感服するね。

協会系酵母にどんなものがあるのか気になる方はこちらをどうぞ。現役のものもあれば、廃れてしまったものもあるらしい。

まとめのようなもの

  • 米と水からアルコール(日本酒)を造るには、米に含まれるデンプンをまず麹菌で「糖化」し、できた糖を酵素で「発酵」させる。
  • 「発酵」と「腐敗」は同じメカニズム。
  • 酵母の餌となる糖がたくさんある場所、つまり醸造所などに自然に生息した酵母を「蔵付き酵母」という。
  • 「蔵付き酵母」から優秀な酵母を選抜して協会が培養したものを「協会系酵母」または「きょうかい酵母」という。
  • 協会系酵母のうち、現時点で協会が頒布している最古の酵母が6号酵母。
  • 6号酵母のルーツは、秋田は「新政」の蔵付き酵母であった。

奥深い日本酒(発酵)の世界に頭がクラクラする。

今回のきっかけとなった新政酒造のサイトはこちら

イオンチャネルの話といい、化学は面白い。(気付くのが30年くらい遅すぎる)

さて次回はES細胞、iPS細胞、STAP細胞のお話をする予定です(うそです)

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