SpectreとMeltdown問題から見える企業構造の弱点

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こうしたことが起きてしまう根本的な原因について業界団体や企業が語れないところに、企業(Corporation)の脆弱性があると感じます。
本来、CPUを設計・製造するメーカーは「中央演算を精密かつ精緻に実行させる装置」にプライドを置くべきところで、それは組織内の方々が痛いほどよくわかっているのではないでしょうか。

このようにして本物の技術ではないものが、なぜ世に出てきてしまうのでしょうか。
今回の問題について対象となるCPUは市場に出回っているもののほとんどであるというところが衝撃的です。
問題が起きる原因となった機能は、投機的実行(speculative execution)アウトオブオーダ実行(out of order execution)です。このいずれの機能も、純粋なるCPUの効率化・高速化の技術ではなく、チート的です。
CPU業界に蔓延している、ムーアの法則を維持するための商業的なプレッシャーを感じます。抜け道的な機能を実装してでもスペック上の処理速度を確保しようとしているのではないでしょうか。
昔、インテル本社の技術者が「自分のプライドをもった仕事ができないが、経済の仕組みで雇われている以上、妥協せざるを得ないことが苦しい」と飲み屋でぼやいていましたが、まさにその通りの実情であったと個人的には思います。

ロジカルに演算処理するもの作りの究極である中央演算装置の開発の最先端の現場には、純粋にCPUに対してロジカルではないロジックが混じり込んでいるようです。
処理速度を上げることだけを使命にして会社が技術者に課題を与えれば、技術者の視野は狭窄します。そして速度を上げることに夢中になり、リスク管理もへったくれもなくなります。
なぜ処理速度を上げるプレッシャーがあるかといえば、競争原理です。
少し前の時代と異なり、いまや民生向けのCPUの世界はそこまで過激な競争を必要としていないように思えるのですが、これは詭弁でしょうか。先日も友人や身内から、新しいノート型PCを購入するためにどんなスペックのものがいいか相談を受けましたが、正直なところ、Webブラウジング、メール送受信、動画再生、オフィスアプリケーションの実行などにおいて、CPUは現行のものならば何でもいいと思っています。より快適性を求めるならば、なるべくメモリは多めで、HDDよりもSSDで、あとは画面の良し悪しとキーボード・タッチパッドの使いやすさと、外部コネクタの種類と数と、重さ。CPUは選択条件の優先順では一番最後に来ると思います。最新3DゲームやCPUに負荷のかかる特殊用途の場合はもちろん別ですが。

人は間違いを犯す生き物であることを前提から外してしまう仕事が増えていると思います。それは、人の仕事をロボットに肩代わりさせる流れを加速する要因にもなっていますが、ロボットもまた人が作りしものだという事実があります。

そこで本来ならば、人が間違いを犯しても結果的に問題がなくなるような仕組み作りが大切になります。「想定外を想定していない」という暴言を、現場でたくさん聞いてきました。それこそが、大きなリスクだと思います。

恐ろしいのは、適切な状況判断を人ではなくAIにさせれば問題が解決するという認識が起きつつあるところです。AIに使用している評価関数自体に誤用があったら、同じような問題がより複雑な状態で起きるわけで、問題の「見えない化」が進むだけで、何も解決しないどころか、かえって悪化させる可能性だけ高める行為だということが、うまく世の中に伝わっていません。

AIには問題が解決できないことを技術者は知っています。そこで何が起きているかというと、より適切な評価関数を選択したり、自ら創り出したりできるAIを作ればいいという判断がメインストリームになっているところがまた恐ろしいです。
自ら評価関数をコントロールできるAIがもし現実化するとすれば、それは人間によってコントロールができません。それでもいいということであれば、それは新しい生命のようなもので、意思を持っていると言っても差し支えないでしょう。
では、人間の善悪判断をどのようにそのAIに伝えるのでしょうか。
このように、解決できない問題を先送りにするだけの技術開発には、終わりはありません。

ところで、人間ってそのような狭窄した想像力だけで生きてましたっけ?
人はミスもするし嘘もつく生き物です。それでも本来の目的を達成できるシステムはどのように作ることができるかについて、よくよく考えていかないと終わってしまう。そういう時代ではないでしょうか。

完璧なルールのもとで生きる人間は、長生きできなさそうですね。

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