あるべき姿

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 ちょっと会社に立ち寄り、雅叙園で開催されるセミナーに参加するために目黒へ向かった。しかし現地に着いて大きなミスに気がつく。セミナーは来週の火曜日だった!
 なぜ来週の火曜日と今日を勘違いしたのかは自分でも分からない。思い込みだ。ウェブページから予約をして印刷した参加証にも、はっきりと11月9日(火)と書いてあるのに。
 なんにせよ、11月にしては強すぎる低めの日差しに目を細めながらたどり着いた会場では、TVでお馴染みの華道家の展示会が催されていた。駅から会場へ向かう人が主婦らしき人たちばかりで、ビジネスマンらしき人がほとんどいなかった理由はこれだったのだ。
 とにかく、予定はもう狂ってしまった。今日は一日セミナーに参加して、夕方早い時間に解放されることになる心積もりだったから、せっかく目黒に来たのだし、歩いて祖母の家に寄って顔を見せて来ようと思ったのだが、それは火曜まで延期。
 このまま会社に直帰するのがとても面倒な気分だったけれど、そうも言っていられない立場なので会社に連絡を入れ、こういうわけで今から戻ると伝えた上で、駅前のタリーズで一服していくことにした。
 行人坂の勾配はきつい。自転車のブレーキ程度では役に立たないほどだ。坂を上るのは当然疲れるし、秋だというのに汗ばんでくる。しかし、大円寺からは線香のほのかな香りが漂ってきて、心を涼めてくれた。

 多くの若い世代(ぼくと同世代かそれより下くらい)にとって、目黒という町のイメージはとても洗練されているようだ。ぼくは目黒というと、古い建物や生活の匂い、そして線香の匂いを想像する。祖父母の家の前を毎年通る山車と神輿。商店を営んでいた祖父は、山車を引く子供たちにアイスキャンディーを配っていた。ラムネ味だかソーダ味だかの、水色をしたやつだ。

 話がそれてしまったが、今はアイスキャンディーも山車もなく、駅ビルは大きくなり、アトレにはタリーズがある。そこでアイスのソイラテを飲みながら、ほんのちょっとだけ最近の自分と将来の自分に思いを馳せる。

 出会うことは好きだ。いろんな場所に訪れてみたい。家族を連れてまったく知らない土地に移住してみたいと思うこともある。仕事で世界中を駆け巡り、いろんな人とめぐり合うのも素敵だと思う。
 うーん、これじゃまるでまだ社会に出たことのない若者が夢を語っているみたいだ。
 もうちょっと具体的に自分に問いかけてみる。

 結婚をしてマンションのローンも抱えているし、犬も4匹飼っているが、子供はいないし、いまのところぼくの親も妻の親も元気で、比較的身軽だと思う。マンションなんて多少損をしたっていつでも売ろうと思えば売れる。あるいは売れないかもしれないが、ローンはどこに住んでいたって払える。犬4匹は国内の移動なら問題なし。海外の場合は少々やっかいだ。飛行機での移動が伴うし、検疫があるし、なにしろ犬は荷物扱いされる。これについてはもっとよく調べておいたほうがいいだろう。

 タリーズの喫煙ルームからガラス越しに人を観察する。タバコはいろんな意味でぼくに影響を与える。健康面。吸う場所や時間を取らせる。精神的にリラックスする。などなど。

 ここから見える人たちは、何を求めているだろうか。何が不足して、何を他人にしてほしいと思うだろうか。これを考えることはマーケティングだろうか。ぼくは本当に犬とかかわる幸せな人生を他人に勧めるような仕事が向いているのか、いないのか。一般の人から見ればITの最先端という位置づけの仕事をしていて、何か得るものはあったか。

 コーヒーを飲み終わると、仕事をやる気がしてきたので、ぼくは会社へと足を向けた。

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