何をブリッジするのか?

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ブリッジエンジニア、ブリッジSEと呼ばれる人たちは、先日のブログでも述べましたが、オフショア開発をする上で起きるさまざまな問題を防いだり解決したりしながら、プロジェクトを達成させる仕事をしています。

ブリッジ(橋渡し)するのは、言語だけではありません。
文化の違い、考え方の違いなど、ブリッジをやっていると、それまで考えも及ばなかったような様々なトラブルに遭遇します。
それらを解決する上で、必要なのはエンジニアや通訳としての知識だけにとどまりません。
自分をプロジェクト上でどのようにうまく位置づけるかというコミュニケーション上のテクニック、相手の考え方の根源にある文化的背景や論理を理解してあげないと、根本的な解決にならない場合が多いのです。

ブリッジエンジニアリングの最終ゴールは、ブリッジなしでうまく連携できる体制を築き上げることだと思います。
その際、お互いを理解するための場を儲け、双方が納得できる解を得ることもありますが、どちらかが折れる場合も多いです。
折れるというのは、相手に合わせるということです。
この「折れる」という状況まで持ち込むのが、日本人同士とは違い、非常に大変です。
しかも折れるということは、我慢している状態なので、それはworkaroundです。ゴールではありません。
双方が相手を理解し、最適の解を得る。奥深いです。
国際交流の手腕も問われると感じています。

駐在員や海外出張者の書いているWeb日記やブログを見ていると、日本的価値観から脱することができてないばかりに苦労しているケースをたびたび見受けます。自分に合わせるように強いてもだめ。協調しないと。
そこは、お客様は神様だとか、どっちが上だとか下だとか、そういう話以前の問題です。

とある会社では、インドにアウトソースをするようになってから、満足のいくアウトプットを得られるまで10年かかったといいます。
知り合いのいるほかの企業では、5年近くの努力にもかかわらず、まだうまくいっていない。

いまは中国やインドを中心に、より多くの企業がブリッジを必要としたり、実践したりしていますが、ブリッジのノウハウは各社で育てて運用しているのが現状だと思います。それらのノウハウを持った会社がコンサルティングを行うこともあるでしょう。
また、インドや中国のIT企業もだまって日本のマーケットを見過ごしているわけではなく、社内で日本語の教育を強化したり、日本向けのブリッジSEを育成したりと、積極的に行動しています。
インドでも、大手のIT企業では、日本語を流暢に操るブリッジSEが揃っているようです。

しかし冒頭で述べたように、「ITが分かる」「両国の言葉が使える」だけでは、ブリッジとは言えません。あくまで私見ですが。
今回の出張ではブリッジにどっぷりハマっていますが、やってみて意外にも、これは自分に向いていると思いました。
自分は技術者としてずっとこの業界にいますが、経歴が異色です。
高校時代に長期交換留学でアメリカの空気を知り、中退した大学は国際学部で、異文化、とくに少数民族について学んでいました。
今までいた会社でも、なぜか外国籍の社員と仲良くなることが多く、いまでも連絡をとりあっているのは、人数の多い順に中国、インド、台湾、バングラディシュ、タイ、カナダ、ドイツ、アメリカ、イランの人たちです。
日本にいるときは思いっきり和食派ですが、海外では「郷に入れば郷に従え」です。
と、自分をアピールしてみましたが、どうでしょうか。

表面的なブリッジならば、TOEIC 700点程度の新人エンジニアでも可能でしょう。伝達さえできればいいのですから。
でも自分は、それをブリッジとは思いません。
国ごとに異なる文化的背景をプラスに転じ、100%のアウトプットを得る。そんなブリッジがしたいです。
そのためには、現地の彼らと同じ時間を共有することがとても重要です。
彼らが何を食べ、何を考え、何を求めて生きているのか。
日本では、話題にするまでもなく「大前提」として話していることが、違っていたりします。
それに気づかずに彼らと話をしてしまうと、大事なところで食い違いが生じます。
大前提を勝手に決め付けて話をするということは、価値観を押し付けるということです。
こういう部分をうまくやれるようになるには、失敗するのが一番の早道です。
失敗しないと、間違いに気がつくことができない。
まさに試行錯誤です。

このように、ブリッジエンジニアリングの世界はまだ混沌としているようです。
いろんなサイトで情報を集めてみましたが、どこもそう変わらないようで。
ブリッジエンジニアリングのノウハウを、うまく標準化することはとても難しそうです。
しかし、やってみる価値はありそうですね。
標準化の際には、表面的な技術に偏らないように注意する必要があり、幅広い経験と知識の共有が必要でしょう。
ITILのように、ベストプラクティスを集めたものになるかもしれません。
これ、面白そうだなあと思います。
「ブリッジエンジニアリング(インド)初級」みたいな資格になったりして。
文化、技術、言語、歴史、ケーススタディ、トラブルシューティングみたいなカテゴリに分けて。
ちょっとこのアイディア、育ててみたいです。

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