いちごの思い出

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小学校1年生の頃、たぶん二番目に古くて、ほろ苦い思い出。
いちばん古い思い出は「ポップコーン」ってのがあるんだけど、それはまた別の機会にw

当時、父方の祖父母と2世帯で暮らしていた。
あの家で暮らしてた頃の母と一緒に買い物にいった記憶はほとんど残ってないんだけど、その日のことはよく覚えてる。
空は曇ってて、台風が近づいていた。雨は降っていなかったけど、とても風の強い日だった。
母に「夕飯の買い物、一緒にいこうか?」と言われて、大喜びでついていった。
母がこぐ自転車の後ろには幼児用のシートがついてて、僕はそこに座って、揺られていった。
駅から結構遠いところに住んでいたんだけど、そのときは確か駅のそばに何か用があったので、いつもの近所のお店じゃなくて、駅前の商店街に行ったんだ。
大きな大きな一本杉のある急な坂道をのぼり、住宅街を抜けて、駅まで。
大通り沿いに並んだお店。
本当に風が強くて、ゴミや土ぼこりがびゅんびゅんと舞っていた。
あの日の母は、僕に大サービスだったのだ。
八百屋で、「いちご食べる?いちご買おうか」って。
いちご嬉しかったなぁ。透明のパックに入ったいちご。八百屋さんで買った野菜の入ったビニール袋の一番上に、つぶれないように大事にのせて、自転車のかごにいれて、あとは家に帰るだけ。
自転車をこぎ出して、ちょっといくと、八百屋さんの何軒か隣に、本屋さんがあった。
当時の僕は、ドラえもんバカと言えるほど、ドラえもんが大好きだった。(今もだけど……)
ドラえもんの単行本が欲しくて、ダメだろうなーと思いながらも、買ってもらえないかちょっと聞いてみた。
(なんでダメだろうなーと思ったのかはよく覚えてないけど、買ってもらったばかりだったのかも)
そしたら、「いいよ」って返事。
そりゃもう、飛び上がるほど嬉しかった。
自転車を歩道の脇にとめて、一緒に本屋に入った。
全巻揃えるのなんて夢のまた夢だった当時だから、本屋に駆け込むなり、何巻を買おうか迷った、迷った。
ようやくどれを買うか決めて、買ってもらって、店員さんに茶色の紙袋に入れてもらって。
大喜びで本屋を出てきたら、そこで目に入ったもの……。
風で、自転車が、倒れてた。

自転車のかごに入れてあった野菜が、そのへんに転がっちゃってる。
大急ぎで、野菜を拾う母と自分。
ふと車道のほうを見ると、いちごのパックが車にひかれて、ぺしゃんこになってた。
呆然と見てる目の前でも、タクシーやトラックや乗用車が、パックを踏んづけて走っていく。
車に轢かれるたびに、「パシャ、パシャ」って音をたてるパックが、とても切なかった。

たかがいちごなのに。どうしてこんなに悲しくなるんだろう。
「あーあ、いちごダメになっちゃったね」
母の顔を見ることができなかった。
「しょうがないよ。いちご、また買おうよ?」
そうじゃない。あのいちごじゃなきゃ意味がないんだ。
涙としゃっくりが止まらなくて「いらない」としか言えなかった。
いらないって言ってる理由が、すねてるわけじゃなくて、あのいちごじゃなきゃ、もういらない、僕に気を使ってまた買ったりしないで、って意味なのに、うまく伝えられなくて。
伝えられないことが悔しくてもっと悲しくなっちゃったりして。

何も言えずに泣きじゃくる僕の横で、財布をあけてお金をだして、いちごを買う母。
「だからー!いらないってばー!!」
天邪鬼にしかみえてないだろうな。って、子供のくせに思ってた。

いまでもこの話を思い出すだけで、涙が出そうになる。
ドラえもんを買わなかったら、あのいちごがダメになることはなかったんだよね。
いちごって、高かったんだよ。(値段じゃないんだけどさ)

こんな細かいことを、たくさん覚えているんだけど、みんなはどうなのかな。

コメント

  1. よもぎもち より:

    何度読んでもかわいそ過ぎて涙でるわっ!!w

    あんまり子供の頃の記憶ってないけど、イヤだったこととか辛かったこととかエライ鮮明に覚えてたりするよね。ヽ(´ー`)ノ