インド・オフショアの壁

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自分の会社もそうだが、インドのIT企業は数年前から日本に注目しており、欧米に続く市場として日本企業とのビジネスを開拓したいと望んでいる。インドの大手IT企業(WIPRO、TCS、Infosysなど)はすでに、日本市場向けに特化したエンジニアを自社から輩出すべく、特別な教育(日本語、日本文化など)コースを設けていたりもする。

一方、中堅企業(僕の会社もそう)では、まだそこまで投資できていないのが現状だ。
とはいえ、インドIT大企業が行っているそれらの教育は、まだまだ足りない部分が多いと感じている。

日本企業ではずっと、改善による開発コストの削減、リスク分散、品質強化の要求が高い状況が続いている。それらの要求をインドへのオフショアによって満たすため、国家レベル、企業レベルでの両国からさまざまな取り組みが行われてきた。

しかしこれらの取り組みが成功しているという話はあまり聞かない。
それもまずは、国家による取り組みにはダイナミックさが欠けており、現場での要求の変化に追従しきれていないことと、企業レベルでの取り組みでは双方が相手に求めるものが共有されないままでいるからだと感じている。
具体的に言うと例えば、日本側でオフショア開発に求めている最大の効果は、費用の削減にある点などである。

単純にコスト削減の効果だけを狙うとしたら、インドや中国へのオフショアリングはすでにおいしい時期ではないと思う。インド・中国を追うようにベトナムをはじめとした諸国が、より安い賃金でITサービスの提供をしているからだ。

ではコスト削減効果を狙わないとしたら、インドへのオフショアリングにはどのようなメリットがあるのだろうか。
まずあげられるのが、オープンシステムにおける高い開発力だ。
これをメリットに、新生銀行をはじめとしたいくつかの金融業界の企業では、オフショアリングに成功している。しかし当時はまだ技術者の賃金格差も大きかったため、コストメリットを出しやすかったといえる。

日本の企業はいま、インドに対して高い期待と不安の入り混じった感情を持っている。
実際、数年前から課題とされていた「開発手法やプロセスの違い」、「思ったほどコスト効果がない」といった原因により、多くのプロジェクトが成功とはいえない終わり方をしてきたのだ。

インドのIT企業はおおむね、欧米を向いている。彼らの歴史からみても、まずはシリコンバレーのファンクションをアウトソースするところから始まっている。インドIT企業は組織体制も、営業のしかたも、プロジェクト管理も、開発手法も、アメリカに習っているのだ。
一方日本における開発は、アメリカのそれと比較して数多くの相違点がある。
この違いをインド側で認識できないことには、成功はありえない。
そのために、僕のような「日本人の」ブリッジエンジニアが活躍する場がある。
しかしこの「ブリッジエンジニア」に求められる機能は、現在多くの場合、技術面とプロジェクト管理面だけである。これを今後は拡張し、技術面、プロジェクト管理面以外、つまり経営手法、マーケティングでもブリッジしていく必要があると感じている。

また、多くのプロジェクトにおいてインドが強いとされる「上流から一括して開発できる能力」を活かしきれていない。部分的なアウトソースでは、インドのIT企業の力を出し切ることは難しいだろう。
商習慣の違いなどを完全にインド側が把握し、その部分で日本企業からの信頼を勝ち取ることができたら、あるいはもっと上流からの一括請けが可能になるのかもしれない。

いずれにせよ、ブリッジするということは、今後より重要になっていくし、インド人の「ブリッジエンジニア」だけでは回らない局面も多く出てきているのが現状だ。(もちろん、言葉の壁を越えるという目的もある)

日本企業が今後インドの高い技術力をうまく使っていく上で、これらの課題をいかに解決していくかがポイントになってくるはずだ。
日本のプロジェクトではアメリカ型よりも暗黙知の集合が多いから、それらをいかにインドが理解していくかが肝要だ。

そのための基盤作りがいま、求められている。自分はその最先端にいると自覚して、基盤作りの役に立っていきたいと願っている。

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