長い道

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これを読み終えて、最初に思ったこと。

「この作品に出会えて、本当によかった」

清々しいタッチで描かれる、生き生きとした絵。
スクリーントーンをほとんど使っていないせいか、なつかしい感じがする。
シンプルで力強い線なのだけど、繊細なやさしさで人の表情や場面の雰囲気をリアルに伝える。
しかし描くタッチとは裏腹に、作品のテーマはとてつもなく重いものだ。
とくに、萌え系や学園ものや日々の平和を綴った作品しか普段読まない人には相当なショックがあるのではないかと思う。
それでも、ここには日本人が忘れてはいけない何かがある。
でも、そんな責任感とか悲壮感とかそういったものはどこかに置いておいて、とにかく素直にこの作品を受け止められればそれでいいのだと思う。
女性の視点だからこそ描ける、日常のありふれた生活の中の非日常的なもの。
やさしさの中に忍び寄り、大切なものを奪っていくもの。
こんなに恐ろしいことを、さらっと描ききってしまう。
この作品を読んで、こうの史代さんの大ファンになってしまった。

戦争のことを思えば思うほど、不思議な気持ちになる。
つい最近まで、この平和な日本があんな世界だったということ。
自分のおじいちゃんやおばあちゃんが、そういった世界を生き抜いてきたということ。
信じられない事実だ。
大好きだったおじいちゃんは、戦争に半身を持っていかれた。
最後には命も。僕が小学四年生のときに、初めて身内の死というものを目にした。
それは、戦争が終わってからすでに40年以上が過ぎていたのにもかかわらず、戦争に奪われた命だったのだと、今では思う。
おばあちゃんは、僕が物心ついた頃から戦争の話を聞かせてくれた。
だから自分にとって戦争とは、決して遠い海の向こうの出来事じゃなくて、身近に起こりうる恐怖の存在だった。

この作品は、戦争とは全く関係がなく、不思議な「夫婦」の日常を描いた作品。
甲斐性なしの夫と、ちょっと変わった妻。
ひょっとしたことから一緒に生活をはじめる。
愛がないのに、あったかい。
これも心に残る良作。
この人の作品をもっと読んでみたいという気持ちになった。

次に選んだのがこれ。
また戦争のお話です。
「夕凪の街 桜の国」と同じく、日本にいる家庭からみた戦争。
さらに、当時の習慣や文化を身近に感じさせてくれる様々な小道具入り。

戦争と生活。一見相容れないこのふたつのものが、当時の日本で一体どのようにして融和していたのかがよくわかる。
しかしやはりそれには無理があり、無理を通そうとするからあちこちに歪みがでてくる。
そんな歪んだ社会のなかでも、生きることに一所懸命な人たち。

敗戦ムードが強くなる戦争末期でも、明るく生きる主人公の姿と、心のジレンマ。
しかしそんな主人公の生き様をへし折ろうとしているかのように、終盤に畳み掛けてくる悲しみに、恥ずかしながらボロボロと涙をこぼしながら読み進めた。
そして悲しみを乗り越えて生きていく人の強さ、心を新たにして生きていく人の姿に、また涙がとまらない。
こんな普通じゃないことが普通だった時代、そしてそんな時代があってこそ今の平和があるのだということを、あらためて実感する。
こうして生きていることが本当に幸せなことなんだなぁ。

読み終えて、さだまさしの「風に立つライオン」の一節を思い出した。

この偉大な自然の中で病と向かい合えば
神様について ヒトについて 考えるものですね
やはり僕たちの国は残念だけれど何か
大切なところで道を間違えたようですね

嫌なほどに生き難い世の中。
誰も生き方を教えてくれないし、あなたはこうするべきって道を示してもくれない。
社会のルールの中で、小さな幸せを感じられたような時代は、もう戻ってこないのかな。そんな世界に行ってみたい。

こうの史代さんの作品、心からお勧めします。

コメント

  1. ちゃぼ より:

    なんとなく絵のタッチがふしぎふしぎの人に似てるなぁ。

    見かけたら読んでみよかな。

  2. うずら より:

    ふしぎふしぎって何だろ?
    読んで損はないと思うよー。
    小さい本屋には置いてないかもしれないけど、見かけたらぜひどうぞ。
    「夕凪の~」は昨年映画化されたみたい。
    映画のほうは、まだ見てないけど。

  3. ちゃぼコッツ より:

    ふしぎふしぎはずっと前にモーニングか何かで連載してたカラーのマンガ。

    何てことない一話完結のほのぼのした話なんだけど、絵が綺麗だから単行本買った。

  4. うずら より:

    ちょっと調べてみた。
    塗りのタッチは似てるけど、絵は似てないかな~。
    内容は面白かった?面白かったら読んでみるよー。