芦田先生の多発性硬化症とは何か(CMS/OSMS/NMOとは何か) ― 何がその治療に最適なのか(ベータフェロン治療はどこまで有害か)を一気に読み終えました。感想を書かずにいられませんでしたが、先生のブログのコメント欄はこの病気に関する情報交換の場にもなっており、僕の役に立たない感想文を掲載することは気がひけるのでこちらに書くことにします。
以下、推敲しておりませんので、読みにくい部分が多々あるかと思います。
これを読み終えて真っ先に感じたのは、内容の充実度でも現代医療と医学の問題でもなく、「情熱というものの大切さ」の再認識でした。これは先生が意図したものではないのでしょうが、僕にはその点がいちばん感動を与えてくれました。先生が奥様の病気のことで長い間病状経過を記録されてきたことは知っていましたが、これまで手を付けていない記事でした。
僕の妻は20代の頃から子宮内膜症と卵巣嚢腫に悩まされています。日常生活の上では問題は無いようです。これは、これまで様々な取り組みをしてきた成果だと僕は思っていましたが、決してそうではないということを今回の芦田先生の記事を呼んで痛感させられました。
日常生活や生命にまで危機の及ぶ多発性硬化症と、生命の安全を確保することが可能な子宮内膜症を同列に扱うことは不謹慎かもしれませんが、この記事があまりにも身近に感じられたのは、妻の子宮内膜症に関する経験があったからです。病気の治療に対する具体的な話としてではなく、問題に対してどう立ち向かうべきであるのかという点において学ぶ部分がたくさんありました。
子宮内膜とは、その名の通り子宮の内側の壁の部分にあたる「膜」のことです。本来は、子宮の内部にしかありません。この内幕は、月経とも深い関係があります。月経周期に伴ない、子宮内膜の量は増減します。月経とともに一部は脱落します。
子宮内膜症とは、この子宮内膜が子宮外で増殖してしまう病気です。子宮内膜自体には悪性の要素はありませんが、あらゆる場所に転移してしまうという悪い性質があります。
この子宮内膜をコントロールしているのは、エストロゲンというホルモンです。卵胞ホルモン、女性ホルモンとも呼ばれます。
このエストロゲンの量が月経周期とともに増減し、それによって子宮内膜が増えたり、一部が脱落して月経時に体外に排出されたりするのですが、同じことが子宮外にある子宮内膜にも起きます。
子宮内と同様、子宮外の子宮内膜も、月経周期とともに脱落する部分と、脱落せずに固定する部分に分かれます。
この脱落した部分が出血なのですが、子宮外での出血は出口がないため、体の中に残り、嚢胞(血液の入った袋状)になります。これが、子宮のすぐ近くにある卵巣の中で起こることがよくあります。卵巣の中で発生した嚢胞をチョコレート嚢胞といいます。これのせいで、本来ならば小指の先くらいしかない大きさの卵巣が肥大化します。これが月経困難症の原因になります。
また、子宮外で剥がれ落ちた組織は血液として体内組織に浸潤して線維化し、癒着を引き起こします。
この癒着によって体内の各部が固着してしまい、痛みにつながります。
妻の場合、チョコレート嚢胞も内蔵の癒着も起きています。過去に2回手術を行いチョコレート嚢胞の除去と癒着を剥がす処置を受けています。
幸いなことに卵巣を残したまま嚢胞だけ除去できています。しかしこれが悪性になったときには問答無用で取り除くしかありませんし、卵巣が残っている限り何度でもチョコレート嚢胞は再発します。
また、癒着の進行も開腹手術をするたびに悪化します。開腹した傷が新たな癒着の原因になるんですね。
もはや腹腔鏡手術はできない程度まで進行しているそうです。手術をするなら開腹するしか無い。
婦人病でかなり有名な先生がいる病院が我が家から遠くない場所にあると知ったのは、2度目の手術から何年か経過し、また妻の病状が悪化してきた頃でした。何か決定的な治療を求めていました。しかしその先生に診てもらえたところで、何も進展はないばかりか、以下のようなことを言われました。
「癒着の度合いからみて、開腹手術はあと1〜2度しか耐えられないだろう」
「その後は、摘出しか道がない」
「嚢胞はかなり大きくなっている。それぞれの卵巣がこぶし位の大きさになっており、さらに背中側に回り込んで背面で左右の卵巣が癒着している」
「いつ破裂してもおかしくない」
この病気は原因が分かっていません。
体組織が変化してしまった説、月経血が体内に逆流して固定しまうという説、リンパ行性転移説、血行性転移説、さらには手術による転移説、そして免疫異常説。
決定的な治療法がないのが現実ですが、症状を和らげる方法はあります。
まず薬物療法ですが、いちばん有名なのが低エストロゲン療法。
先述した、子宮内膜の増減にかかわるホルモン、エストロゲンの分泌量を薬によって減らし、子宮内膜の量を減らすことで進行を遅らせる方法です。
もちろん完治しませんし、薬をやめたらその時点ですぐに元通りです。
さらにこの低エストロゲン療法には危険な副作用があります。実は、血中エストロゲン量は骨密度と非常に深い関係があるのです。
つまりこの療法を続けていると、骨粗鬆症になってしまうのです。
したがって、この療法は3ヶ月以上連続で行うことができません。休み休みやるしかないのです。
しかも薬を休んでいる間は病状が進行していきますから、結局のところ、骨をボロボロにしながら病気の進行を遅らせることしかできないということになります。進行を遅らせるためだけに支払われる代償が高すぎます。
妻は最初の手術以来、ずっとこの療法に頼ってきました。既に骨に対する影響が心配です。
そこでもうひとつの薬物療法に目が向きます。
エストロゲンとプロゲステロンを投与して、偽妊娠状態にすることで月経を止めてしまう方法です。簡単にいえば、ピルを使うということです。
月経が止まることで出血が無くなるので、内膜症の進行を抑えることができます。
しかしこれもまた、ピルをやめればそこで進行が再開してしまうため、一時しのぎでしかありません。
また、ピルにも相当な副作用があります。血栓ができやすくなる、心臓や循環器への負担が増える、発がん性がある、イライラや頭痛を引き起こすなどです。月経が止まるので、更年期障害と同じ症状もたくさん現れます。
それでも、これ以外の選択肢はありませんでした。担当医にも、妻は既に低エストロゲン療法を長く続けすぎているから、骨への影響が心配だと言われましたから、現在日本の保険適用となる薬物治療でできるのはこれしかありませんでした。
薬物以外の治療方法もいくつかあります。
開腹もしくは腹腔鏡手術によって内膜そのものを取り除き、癒着を剥がすという方法もありますが、これとて病気の根治をするわけではなく、進行してしまった状態を一旦戻すだけです。先にも述べたように、開腹によって癒着の進行速度が上がってしまうリスクもあります。
卵巣のチョコレート嚢胞の場合、体外から長い針を刺して内部の血液を抜き取り、代わりにエタノールを注入する治療もあります。これはやったことがありません。卵巣の位置が既におかしいので出来ないのかもしれません。これもまた、ワークアラウンドにしかなりません。
現代西洋医療において、子宮内膜症の根治手術といえば、子宮の全摘出しかありません。
しかしこれを若いうちに行ってしまうと、更年期障害に長年悩まされて行くことになりますし、さらに、エストロゲンの量が減ってしまうため、将来骨粗鬆症になる可能性が高くなります。要は、月経なしで何年間生き続けるかの問題です。早くなくしてしまうほど、骨粗鬆症のリスクは高くなるのです。
そういうわけで、「子供を作る予定がないから」といって、安易に根治手術を受けるわけにはいかないのです。
こんなにっちもさっちもいかない状況をなんとか打破したい。
そんなときに目にしたのが、とある新聞記事。
「子宮内膜症に、喘息の薬が効果あり」という内容でした。
現在日本の医療では、子宮内膜症・卵巣嚢腫を「ホルモンの病気」として扱っています。しかし欧米では既に「免疫の病気」という意見が多数になってきています。日本にいる限り、免疫学的な治療を保険対象として受けることはできないのですが。
しかしこの方法は暗闇に射した一条の光に見えました。
当時の妻はもう、薬の副作用のせいなのか卵巣が大きくなりすぎたせいなのかわからないくらいに様々な症状に悩まされていました。
稿にもすがる思いで、ある書籍で知った医師のもとを訪ねました。
ようやく予約した日がやってきて、二人で南青山にあるその医師のいるクリニックを訪れました。
これまでの経過と現状を詳しく話し、理解してもらいました。
この先生が今後の医療方針について述べる前に、一言僕に質問しました。これは今でも忘れられないことです。
「あなたの治療目標はなんですか?」
先生の質問がうまく飲み込めずに聞き返すと、再度言いました。
「この病気は完治しません。治療の目的は、妊娠することなのか、それとも、痛みをなくすことなのかということです」
そんな感じの言い方だったように思います。
答えは決まっています。痛みを取り除くことです。
そう答えると、先生の厳しい表情がふっと柔らかくなり、
「その答えを聞くことができて、嬉しいです」
と、おっしゃいました。
先生の話では、同じ病気で来院する夫婦のだいたい8割近くの夫が「妻の体より子供を」という発言をするそうです。これが本当だとしたら、恐ろしい現実です。
妊娠するための治療と、痛みを除くための治療では、まったくやり方が異なる。
だから、最初にこの質問をする必要があるのでした。
もし仮に「妊娠を望む」と答えられた場合、僕の妻の状態では、開腹手術が必要だそうです。それはそうでしょうね。
それで、子宮の癒着をきれいにして、卵巣も元通りの大きさにして、卵管の通路も確保して、すべての器官を元のあるべき位置に戻してやる。
それをやった上で、妊娠可能な状態は1年くらい確保できるとのことです。
しかし1年たてば、また病気が進行して妊娠不可能な状態になる。
さらに厳しいことに、その「妊娠可能な1年」も、自然妊娠する確率はほぼゼロ。不妊治療を1年間集中して行うことで、10パーセントから20パーセントくらいの成功率で妊娠できるだろうということでした。
また、開腹手術をしたうえに、不妊治療を行い、その間、病気を進行させる月経を止めないわけですから、母体の負担は相当なものになります。
これだけ高いリスクで低い可能性であっても、そちらを選ぶ人のほうが多いという現実。
一方で、捨てられて行く子どもたちもいる。
とにかく、我が家はそちらの道には行かない選択をしました。
先生の説明によると、これまでの病院の対応は適切。というか、日本の健康保険医にできることはそれ以上は何もないということ。
いまの妻の卵巣の状態は、IV期という一番悪い状態にある。これを普通の産婦人科が診たら「即手術」となること。
しかしその先生の考えでは、これ以上の開腹手術はリスクが大きいため、まず開腹せずに卵巣の大きさを小さくする治療を行い、痛みを和らげることができたら、その状態を維持しながら付き合っていくのがベストであるとのこと。
卵巣の大きさを小さくするということは、これ以上子宮内膜を増やさないということです。
増やさなければ、時間をかけて自然に小さくなっていくらしいです。
とにかく、今はいつ破裂してもおかしくない大きさにまでなってしまった状態を早く脱したい。
そこで出てきたのが、喘息薬になります。
内膜症と気管支喘息は病態がよく似ているのだそうです。
さらに、喘息薬として処方してもらえば、保険適用されるので安く入手できるのです。
いままでとってきた方法は、ホルモンを操作して内膜の増加を食い止めるもの。
喘息薬はまったく違うアプローチです。アレルギーを抑える薬です。
「子宮内膜症はアレルギー性疾患である」という、日本ではコンセンサスのとれていない前提による治療です。
婦人科では処方できないので、将来もし悪くなることがあれば考えようということになりました。
この医院ではイソフラボンを中心に処方していただきました。
イソフラボンは、エストロゲンと同様の作用があると知られている、大豆などに含まれるポリフェノールの一種です。
エストロゲンよりも効果は低いらしいですが、一方で副作用が無いという利点があります。
これを続けてみたところ、非常によい。
癒着してしまったものはそのままですが、病気が進行しない。また、卵巣が小さくなりました。
そして何より、本人の「痛み」が無くなりました。
あれから数年。今は薬を一切使っていないのですが、そろそろ定期検査をしないといけないと思ってます。
しかし妻はそのへんにものすごく無頓着で、自分の体のことなのに、進んで検査に行きません。
嫌な思いたくさんしているのは分かるんですけど、もうちょっと進んでやってほしいです……。
長くなってしまいましたが、以上が、我が家における妻の病気との戦いの記録です。
この経験をもった上で、冒頭にある芦田先生の記事を読んだのですが、まさに別次元としか言いようがありません。
芦田先生の情熱は現在の最先端の研究にまで及び、ものすごい勢いで知識を獲得していくその過程が衝撃的でした。
医療に携わらない部外者でも、ここまで突っ込んだ情報が手に入り、さらに情報発信できるのですね。
自分がやってきたことは、努力とはまだまだ呼べないレベルのものであったと痛感しました。
そして、お前もやってみろと、背中を強く押された気持ちにもなりました。
他にも色々と考えさせられることの多い読み物でしたが、ひとまずここまでにしておきます。
コメント
喘息の薬は使ってないよー。
アレを婦人科で使うにはまだ認証されてないとか、なんとか?
使ってたのは大豆とよもぎのサプリ2種類。
> よも
あれ、結局使ってないんだっけ。
それじゃイソフラボンだけでよくなったのか。
イソフラボン摂取か、
メモメモ。
なかなかこういうのは旦那さんの理解を得るのは難しいけど
こういう事を調べたりしてくれるだけでも
有り難い事だよ!
あれ?匿名になってるけど↑
私ですwww
> そらまめさん
誰かと思ったw
イソフラボン、いいらしいですよ!
豆乳にも入ってるのかな?