プログラマーになりたい?

この記事は約6分で読めます。

ITの世界を外から見ると、わかりやすい職業と、わかりにくい職業がある。たとえば「プログラマー」や「ネットワークエンジニア」「デザイナー」「テスター」「サポートエンジニア」「プロジェクトマネージャ」などは、なんとなくイメージが湧きやすいのだろう。

「プログラムマネージャ」「プロダクトマネージャ」「アーキテクト」「ITコンサルタント」「サービスマネージャ」「品質保障(QA)」などは、世の中のビジネスや経営の仕組み、製品やサービスのライフサイクルを理解していないと、いったい何をやっているのか想像すら難しいわけです。

デザイナーもアーキテクトも同じ「設計士」という日本語に訳すことができてしまうのですが、役割は異なります。これが理解できていないと、グローバル化されたIT業界のビジネスプロセスで自分が何をすべきか理解できないのです。

外資系企業・多国籍企業の日本支社や日本法人(現地法人)においてグローバルな組織の一員として活躍するためには、世界的なIT業界のビジネスワークフローのトレンドをしっかりと理解していることが求められていますが、e-Learningなどの教育が徹底している大企業ならともかく、SMEやベンチャー等においてこのような教育はありません。一方で海外の高等教育機関できっちりと学んできた人は、大学等でこのようなことを深く理解している傾向があります。これはわたしが今まで何千人もの国内・海外のエキスパートたちと共に働いてきて感じていることです。

たとえば次のような求人サイトに提示されている「職種」をみて、だいたい何をする仕事なのか理解できるでしょうか。

外資系企業の日本オフィスで働いている社員ですら、理解していない人がいます。求人情報(Job description)にはRoleとかResponsibilityが書いてありますが、RoleやResponsibilityという言葉の意味が独自解釈されてしまうことがよくあります。これらの意味について理解するためには本来、その会社がどの国の文化を背景に持っているのか、どのような歴史で成り立った会社でどのような経緯で存続しているのか、社風についてよく理解することが求められます。

上のリンクはGAFAの求人情報ですが、GAFAの4社をとっても、それぞれの企業に異なる背景や目的や風土がありますから、各企業が目指しているものを理解した上で募集されている役割について考えてみると、自分がそこで何をすべきかが見えてきます。これが見えるか見えないかによって、入社後のパフォーマンスには当然、差が出てきます。自分がどのようなキャリアパスを得たいかについて考えることも当然必要ですが、自分が相手に(この場合は入社する企業に)どのような価値を与えられるのか、年齢によってはポテンシャルも含めてマジメに検討することは、将来の自分を形作るために必要なプロセスだと思います。

「IT業界に入りたい」と言う若者に「何をしたいのか」と聞くと、納得できる答えを伝えてくれる人はほとんどいません。その大きな理由のひとつが、「どんな職種があるのかよく知らない」ということです。「技術」と「営業」と「マーケティング」くらいのイメージしかない人が多いと感じます。

いまプログラミングが注目されているとよく耳にしますが、実際には「プログラミングを注目させようというマーケティングが横行している」だけのように見えます。なぜそのようなことが起きているのか、様々な要因が思いつきますが、大きな流れとして間違っていないと感じるのは、SES(System Engineering Service)の横行です。

SESって聞くと何かよくわからないカッコいいものに感じられますか? 実際には人材派遣業です。人材派遣そのものを目的とした企業がIT業界にもたくさんあります。そこに登録している「エンジニア」は、資格やスキルを商品価値としてみなされていますが、実のところSESに高度なスキルを持ったエンジニアを見つけることはとても難しいのです。このSESに目をつけた、あるいはSESと繋がった存在が「プログラミングスクール」です。IT業界はプログラマーだけで成り立っていません。プログラムは共通言語的な役割をもつことは多々ありますが、IT業界のなかでも職種によってはまったく必要のないスキルですし、プログラマー以外の職種で実際の業務でプログラミングをしなくてもプログラミングの経験が役立つ職種もあります。

誤解を恐れずに書くと、プログラミングができるというのは「鉛筆を持って日本語を書ける」程度のことです。そこには、素晴らしい文章が書ける保障もありませんし、美しい字体で書ける保障もありません。ましてや、読み手の心を打つような内容が書ける保障もないのです。

まずスキルありき、の教育による弊害には手を焼きます。これを「まず目的ありき」にしていく必要があると、多くの現場から声が上がっています。なぜそれが変わらないのかというと、変えられない「カネ」の仕組みが構築されてしまっているからで、それはサービス提供者とクライアント側の両方において課題があります。

多くの企業でそれを強く感じることがありました。いったい何のために製品やサービスを設計するのか、自分が所属している組織はいったい何をゴールにしているのか。理念やビジョンのないところに残るのは「カネ」だけです。カネを目的にビジネスをすることは何ら間違っていないと思いますが、「カネだけ」を目的にビジネスをする傾向に組織がシフトしていくことによって、顧客も従業員も経営側もすべて得しない流れが生まれてしまうのです。

たいへん長い文章になってしまいました。ここで僕が言いたいことは、IT業界に限らず「好きなことを追求する」ことの大切さを見失わないでほしいということです。ときにそれは勇気を求められます。「怖い」と感じることは毎日のようにあります。辛いこともたくさんあります。どんな仕事でも、そうでしょう。辛いときや怖いときに「それでは、自分はどうするのか?」ということを突きつけられます。

本当にやりたいことでなければ、いずれ挫折してしまうのです。挫折もひとつの経験ですから、それを避けようとする必要はありませんし、避けることは不可能です。しかし、「カネ」のためにIT業界に来ようとしている人たちは、よくよく考えてみることをお勧めします。カネが稼げるかどうかは、どんな業界でも知恵ひとつです。カネだけ稼げればいいのならば、いくらでも手段はあります。でもそれだけじゃないのが人生。

すくなくともITに興味を持ったのならば、口を開けて情報が入ってくるのを待っていることはやめて、自分からいろいろ調べたり行動したりしてみたらよいと思います。僕のような奇特な人もいますからね。

コメント