SWITCH企業。
一般人には耳慣れない名前の会社かもしれないけど、IT業界に身を置いていたら知っておくべき。
インドの大手IT企業の頭文字をとったもので、たしかGartnerが作った言葉。
SはSatyam、WはWIPRO、IはInfosys、TはTCS、CはCognizant、HはHCLのこと。
いまや世界のITは、SWITCHを含む多くのインドIT企業の存在なしには成り立たなくなっている。
そんな中で、インド第4位のIT企業、Satyamがスキャンダルを起こして一気に危機の様相を呈した。粉飾決済を行い、創業者で会長のB. Ramalinga Rajuが引責辞任を表明したのだ。(文末の記事参照)
このSatyamのケースは、昔USでWorldcomが起こした粉飾、破綻と同じパターンである。
ちなみにWorldcomの破綻は、去年破綻したリーマンブラザーズの破綻に次ぐ世界第二位の規模の破綻だ。
Satyam――5万6千人の従業員を抱え、その多くがIITをはじめとするインドの名だたる大学や大学院を卒業したハイレベルなエンジニアで構成されていると言われている大企業。
Satyamといえば、2010年および2014年のFIFA World Cupにおいて、インド企業初のITサービス分野のスポンサーになったと発表されて、ちょっと話題になっていた。
しかしその実態たるや、なんと現預金の94%は粉飾で、その金額は約10億USD(日本円にして1,000億円ほど)にも達する。
これは恐ろしい金額だ。ものすごい大金です。
この事実が発覚し、Satyamの株価は一気に65%以上下落した。
個人的にこのビッグニュースは、大きな氷山のほんの一角ではないのかと疑っている。
Worldcomのケースは、米国における通信産業全体の景気が下降したことに端を発する。
Satyamのケースは、インドにおけるIT産業全体の景気が影響していることはほぼ間違いない。
Worldcomは、合併によって化粧直しを繰り返してきた。
2000年にSprintとの合併に失敗してから、坂道を転げ落ちるように状況は悪化した。
その後、自社株の下落を食い止めるために粉飾を行ったのだ。
まさにSatyamのケースと同じだ。
SWITCHを含めインドのIT企業の多くは、互いをライバル視しながら、とてつもなく過酷な市場争いを続けてきたわけだが、それに伴ってインドの経済はIT市場の大幅な成長に引っ張られるようにしてインフレを起こしてきた。この10年間、20年間で都市部の時価は大幅に上昇し、エンジニアの単価も上がり、株価も上がった。中国のそれと比べれば安定した上昇であると言われてきたものの、まさにバブル状態だったわけだ。
インドITの中心地であるBangaloreは、もともと小さな田舎の村だった。
いまや、世界のITのコアである。
Bangaloreに訪れると、世界の名だたるIT企業が、ものすごい規模で開発拠点に投資してきたのが手に取るようにわかる。
数万人単位でエンジニアが働くキャンパスが、ごろごろしている。
まるで飛行場のような広い敷地にどーんと構えたキャンパス群は、壮観。
しかも、訪れるたびに新しい建物がどんどん増えているのだ。
そんなとどまることを知らぬ成長を見ながら、これは一体どこまで続くのだろうという一抹の不安を覚えたものだ。
インド株や不動産はハイリスク、ハイリターン。
僕の友人のインド人エンジニアは、インドITの拠点であるBangaloreに家を買ったのだが、たった2年間でその家の価値が2倍以上になったと言っていた。
しかし一方で、現地の土地勘をまったく持たない日本人投資家がインドの不動産に手を出して塩漬けになってしまったという話も知っている。
インドにおいてITのエンジニアになるということは、超エリートになるということ。雇われ弁護士や雇われ医師よりもはるかに給料が高い。人口が多いので当然IT企業に就職するのも狭き門で、高いスキルや経験を持っているのに職がないという人もたくさんいる。
以前、同僚のインド人エンジニアの友人の家に遊びに行ったことがある。Bangalore周辺の安いアパートに数人の求職中のエンジニアたちと一緒に暮らしていた彼の生活レベルはとても低いものだった。そんな同居生活を送る彼らは一流の教育を受けたエンジニアで、学歴も経歴もすばらしいものだった。そんな人間が、インドにはゴロゴロしている。
しかし、欧米の市場においてインド企業の浸透はほぼ限界まで完了した今世紀に入ってから、インド企業の成長に翳りが出てきた。
そこでインド企業の多くは経営方針の転換を迫られた。
多くの企業は新たな市場開拓先としてGNP世界第二位である日本をターゲットにした。
日本では「オフショアリング=コスト削減」という目的が第一にあり、それ以外のメリットについてはまだあまり注目されていないのが実情である。もはやインド人エンジニアの単価は、昔のように安くはない。いや、実際には安いエンジニアも確保できるが、悪かろう安かろうである。安賃金ではとてもじゃないが日本企業が求める品質を維持できるレベルのエンジニアは確保できない。
トップクラスの実力と経験を持ったエンジニアも腐るほどいるが、彼らは安くない。日本人エンジニアの単価と比較しても負けてしまうことがあるくらい高い。
それに加えて言葉の壁。日本のマーケットに食い込んで売り上げを伸ばしていくいくという彼らの目論見は、成功しているとは言えないだろう。インドITパワーのメリットは、弱くなっている。
(日本側にも、企業がグローバル化できていないという問題もあるのだが)
一方でインドにおけるエンジニアのコストは上がり続け、会社維持にかかるお金もかかり、顧客からはさらに厳しい条件での仕事を突きつけられる。彼らは、契約さえ取れればあとはエンジニアはたくさんいるから何とかなるというスタンスで仕事をしてきたから、リソース不足という言葉を知らない。
開発現場の細かい点にまで入り込んでいろんな理由を指摘していると長くなるので割愛するが、こうして、砂上の楼閣が築き上げられていったのではないかと思う。
それでも彼らの言い分としては、世界最高峰の技術力と、他国の企業では真似のできないほど最新技術を使ったプロジェクトの経験が豊富であることだった。
英語圏ではこれがある程度成功したのかもしれない。インド企業はサポートのアウトソーシングから始まり、いまや開発の中心となり、これからはITや経営のコンサルティングにまで範囲を広げ、企業のIT戦略をワンストップでサポートできるようになることを新たな目標とした。
しかし日本のように英語が浸透していない国では苦戦している。
また、米国のコンサルティングファームの巻き返しの影響もあるだろう。
AccentureやEDSなどのITコンサルを得意とするファームは、コンサル専門であることをやめ、コンサル、開発、そして運用やサポートまでワンストップで行う体制を強力に固めた。日本でもアウトソーシング向けの(コンサルよりも単価の安い)エンジニアを大量確保した。オフショアやニアショアを有効に活用し、コストダウンも成功させた(日本ではまだまだオフショアリングに課題が多く、オフショアの導入にはAccentureも苦戦している)。
僕がいた最初のインド企業は、「自分たちの作りたいものが作れる環境」に拘り、頑なに外部からの投資を拒み続けるPrivate companyだったから、粉飾とは縁がなかった。そのような健全なインド企業は数多くある。
また、次にいたインド企業は、米国の大手投資会社が親会社だったこともありfinance関連の処理に対して非常に厳しかったため、インド企業としてはしっかりしているほうだったようだ。(ただし、regionによって運用が最悪というデメリットもあったが)
ちなみに投資会社の目的は、企業を上場させて価値を何倍にも膨らませて、金を儲けることだ。
その後のことは知らない。売ってしまうケースが多い。
そうなると、実際の価値に色がつけられたその企業は、泥沼にはまる。
インドIT企業はこれまで、世界を相手にビジネスを行ってきたが、会社の運用は甘かった。甘くても許されてきた。それでも成り立ってきた。経営がグローバル化されていなかった。
インドITの不況が、世界規模では吉と出るか、凶と出るか。
いずれにしても、世界はすでにIC(インド中国)の力なしには前に進めない。
彼らの実力が世界トップレベルであることには間違いはないのだから。
これから本当の意味でインドIT企業のグローバル化が試されることになるのは間違いないだろう。
そしてそのとき、インドのITが本当の価値に見合った報酬を得るようになったとき、資本主義のピラミッドで頂点の位置にいたいわゆる先進諸国の企業たちが、どのようにして立て直していくかが、見ものではある。
Satyam's Chairman Resigns After Inflating Profit, Revenue Figures
from The Wall Street Journal | TECH
By ROMIT GUHA
BANGALORE -- Satyam Computer Services Ltd. Chairman B. Ramalinga Raju tendered his resignation Wednesday after admitting to inflating revenue and profit figures over several quarters, sending the company's shares plunging more than 60%.
[Satyam chairman resigns] Bloomberg News/Landov
Satyam Chairman Ramalinga Raju
In a letter to the company's board, which was released to the Bombay Stock Exchange, Mr. Raju said that Satyam had inflated its operating profit for the three months ended Sept. 30 to 6.49 billion rupees ($133.5 million) from 610 million rupees reported previously, while revenue was inflated to 27 billion rupees from 21.12 billion rupees.
"Under the circumstances, I am tendering my resignation as the chairman of Satyam and shall continue in this position only until such time the current board is expanded," Mr. Raju said in the letter.
"I am now prepared to subject myself to the laws of the land and face consequences thereof," he said.
In morning trading, shares in India's fourth largest software exporter by revenue, plunged 65.2% to 62.40 rupees on the Bombay Stock Exchange.
Last month, the Hyderabad-based company said it will hold a board meeting on Jan. 10 to consider options to enhance shareholder value.
On Dec. 16, Satyam announced plans to buy out Maytas Properties Ltd. and acquire a 51% stake in Maytas Infra Ltd., two companies in which its founders, Chairman Raju, Managing Director Rama Raju, and some of their respective family members, have about a 35% stake each. But a few hours later, it canceled the plan after analysts and shareholders criticized the move.
コメント
中国の製造業と似ている点があります、米国など主な客先、輸出先の不況が続くと、これから吸収合併、倒産、乃至不祥事などはかなり出てきます。逆に生き残る一部の企業がより強くなると思います。
中国でも国が無理やりまでやって、付加価値の高い(自分独自の技術、ブランドなど)分野へ転換しようとしていますが、時間がかかります。逆にこのグローバルな不況の中、絶好なチャンスととらえている企業も有ります。例えば、フォード傘下のボルボ・カーズは中国の自動車メーカーに狙われるではないか、日本も含めてメーカーがある意味で警戒しているようです。
shadowさん>
ご無沙汰してます。なかなか連絡できなくてすみません!
ぜひ新年会しましょう。
中国の製造業でもこれに似たような状況があるのですね。
中国でもこの世界的な不況で、様々な影響がでてくるのでしょうね。
しかしこれは、逆に悪い膿を出してしまうチャンスでもあるんじゃないかと思っています。
最近仕事で中国とも関わる機会が増えてきて、今年は大陸に初めて訪れることになりそうです。
欧米、インド、APACだけでなく、いろいろと視野を広げていくチャンスなので、楽しみにしています。
久しぶり会っていないですね。いろいろ忙しいと思いますが、ご都合がよい時に、会いましょう。
shadowさん>
ぜひお会いしましょう、連絡しますね。