双極性障害にとって大切な自己管理

前回の記事では双極性障害がどのようなものなのか、脳科学的な視点で情報共有させていただきました。
場末P科病院の精神科医のblog」、こちらのブログは本当に素晴らしい情報に満ちあふれており、しかも最新の精神医学情報を、素人にもなんとか分かるレベルで説明してくださっています。

さて今回は、同じ場末P科病院の精神科医のblogさんから得られた情報のひとつをご紹介しましょう。

ただご紹介するだけでしたら、それはもう是非元の記事を見ていただきたいですが、こちらではもっと噛み砕いてわかりやすく要約してみたいと思います。

引用元:双極性障害の予後は自己管理で決まる : 場末P科病院の精神科医のblog

「自己管理は必要。薬だけでは治らない」を理解する

これは精神論でも気合いでもなくて、双極性障害には、薬以外にも自己管理という予防方法があるのです。

自己管理は双極性障害だけでなく、健康・不健康にかかわらず毎日の生活を楽にするものだと思います。私も昔は生活リズムをキープするのが苦痛でした。しかし何年も双極性障害と闘ってきて分かったことは、生活リズムを整えれば、さまざまな苦悩から脱することができます。それが次の躁鬱サイクルまでの一時的なものであっても、価値があります。

そして自己管理についてここで言いたいのは、これまでの記事にあったような「経験則」ではなく、自己管理が双極性障害の予後にたいへん重要であるという根拠をきちんと研究している方々がいるということです。

“What works for people with bipolar disorder? Tips from the experts”
(双極性障害の人々に何が役立つのか?エキスパートからの助言)
http://video.med.ubc.ca/videos/osot/faculty/ms/What_Works_for_People_with_Bipolar_Disorder.pdf

双極性障害の人が社会においてうまく生活していくための自己管理方法は、あまり研究されていないそうです。そこで、この論文の著者たちは・・・

双極性障害BDの社会的に機能していくマネージネントの方法はあまり研究されていないらしい。そこで、この論文の著者らは、より良き自己管理を研究することにした。自己管理が大切だとは言われているが、具体的にはどうしたらいいのかということが曖昧なままになっている。そこで双極性障害の症状ではなくて、いろんな機能を評価するスケールであるMSIF(Multidimensional Scale of Independent Functioning)を用いて双極性障害をうまくコントロールしている人のやり方を評価していくことにした。製薬会社の提示するデータはYMRSやHAM-Dといった症状の変化しか提示しない。しかし、もっと大事なことがあるのだ。それは社会でちゃんと機能しているかということなんだ。いくら症状が良くなっても、社会で機能せずに孤立して苦しんでいるのでは意味がないではないか。これからの治験ではMSIFの変化も調べて我々に提示してフィードバックしてほしいと言いたい。

MSIFは点数が低いほど高く機能していることになる。MSIFが3点未満をhigh functioningとした。そこで高く機能していると思われる双極性障害の患者を調べた(32名。双極1型25名、2型7名。女20名、男12名。平均年齢41.1歳)。その結果、BDの健康(wellness)を維持する戦略となる因子としては、(1)睡眠、休息、運動、食事 (2)モニターをし続けること (3)プランを制定すること (4)内省して瞑想すること (5)双極性障害を理解して双極性障害の他者を教育できるようになれること (6)他者と繋がっていることが浮かび上がってきた。(1)~(6)を実践していけばBDという疾患を克服できるようになり未来に希望が持てるはずだと著者は力説している。

以前はBDの自己管理についてはラッセル博士とブラウン博士の論文くらいしかなかった。

Russell, S.J., Browne, J.L., 2005. 「Staying well with bipolar disorder.」 Australian and New Zealand Journal of Psychiatry 39 (3), 187-193.

その論文によると、

  1. 診断を受け入れる
  2. 心を満たす
  3. 双極性障害の教育を受ける
  4. 症状を悪化させるトリガーを同定し認識する
  5. 睡眠とストレスを管理する
  6. ライフスタイルを変える
  7. 治療する
  8. サポート制度を利用する
  9. より良くやっていくためのプランを発展させる

さらに、近年、Miklowitz博士らは、6つの因子を同定した。

Miklowitz, D.J., 2008 「Adjunctive Psychotherapy for Bipolar Disorder: State of the Evidence.」 American Journal of Psychiatry 165 (11), 1408-1419

  1. 投薬へのアドヒアランス
  2. 疾患への知識を得る
  3. 規則的な睡眠と覚醒のサイクル
  4. 機能不全となるような態度をやめる
  5. 家族とのコミュニケーション
  6. 早い段階での症状悪化の認識

アドヒアランスとは:

注: 指示されたことに忠実に従うということより、患者が主体となって、『自分自身の医療に自分で責任を持って治療法を守る』という考え方がアドヒランスである。患者自身が病態を理解し、治療の必要性を感じて、積極的に取り組むのがアドヒアランスである。医師の指示に従うだけでなく、医師任せにしないで、自分でも疾患をコントロールしていこうと積極的に取り組むことが大事なんだ。

[『コンプライアンス』と『アドヒアランス』] by サイバーキッズクリニック

以下、長いので引用ブロックを使用しません。(引用元は同じく双極性障害の予後は自己管理で決まる : 場末P科病院の精神科医のblogです)

疾患を克服して社会的に機能した希望に満ちた日々を送らないと意味がない。そのような社会的に十分に機能した日々を送っているBDの患者様の具体的な生活内容は、以下の通りだった。

1. 睡眠、休息、運動、食事

睡眠は皆、規則的でした。合計8~9時間も睡眠しています。夜更かしはしません。数人は昼寝を習慣にしているとのことでした。しかし、昼寝とかじゃなくて覚醒しながらの休息が大事だと強調した患者もいます。横になったり、TVを見ながら休息を取っているとのことです。運動は軽めの運動を規則的にするのが良いでしょう。太極拳、ヨガ、エクササイズ、ウォーキング、スノーボード、水泳とかやってます。ダンス教室に通ったり、ヨガの教室にも通ってます。ダウンタウンでホワイトカラーとして働いているとフィットネスクラブにも通いやすいですね。海岸をウォーキングするのが一番の治療ですわと言った年配の患者様もいました。若い患者はアウトドアスポーツを計画して行ってます。若いBDの患者様は、マウンティンバイクをやってます。週に5日、1回2時間。これをやっていると本当に僕の助けになるんだとか。

MSIFが良い患者は皆、食事や栄養には気を使ってます。規則的にヘルシーなものを食事しています。ビタミン剤のサプリメントも飲んでます。サプリメントの中でも、ω3脂肪酸、葉酸、メラトニンは神経保護作用があると言われています。特にω3脂肪酸は重要でしょう。食事をコントロールすることがバランス感覚を培い、BDという疾患もコントロールできているんだという自信に導いてくれます。食事のコントロールが気分のコントロールに結びつきます。食べ過ぎていたら、逆に、食べてなかったら、BDを克服して良くやれているとは実感が持てないようです。食事は大事な自己管理なんです。カフェインや砂糖を取りすぎたら気分が変わるとすぐに自覚できるようにまでなっている患者様もおられます。当然アルコールも控えないとねいけません。できれば禁酒がベストでしょう。飲料水の飲みすぎもダメですね。マリファナや脱法ハーブなんて絶対にダメです。

(注:なお、食事と関係していることで、リチウムを内服中の塩分摂取があります。リチウム内服中は、低Na血症には注意しましょう。低Naだとリチウムの濃度がいっきに上がることがあります。これは危険です。リチウム内服中は塩分を控えめにはしない方がいいかと思います。逆に塩分を取り過ぎるとリチウムの濃度は上がりません。リチウムの濃度が上がり過ぎない方が精神科医としては安心はできるのですが、濃度が低いのも再発のリスクなどが心配になります。良い濃度に保つことは意外と難しいんですよ。これまでの印象では0.6~0.8の間が理想でしょうか。まあ、デパケンやラミクタールも併用している時は0.4でもいいかなと思うこともあります。血中濃度を一定に保つためにも、規則正しい食事が大切ですね。)

2. モニターをし続けること

気分や活動性の変化を自分で注意してモニターしていくことは、強いモチベーションを持つことになり、wellnessは自分の責任なんだと理解できることになります。危険なサインは自分で気が付かないと意味がないんだと分かります。自身の状態をモニターしていくことはいつも突然起こる変化への用心なんだよ。記録し続けていくことで心も満たされるんだと言った患者様もいます。モニターすることが過労も避けてくれます。もし、過労ぎみだと分かれば、約束はキャンセルしたっていいのです。睡眠をモニターして、もし、必要ならば睡眠剤を使ってもいいのです。モニターに変化があれば早めに医師に相談するのがいいでしょう。

配偶者やパートナーがしてくれるモニターも役に立ちます。躁やうつへの変化の警告のサインにいち早く気づいてくれるのは配偶者かもしれません。奥様と一緒に来る患者様って、さすがに安定しています。夫婦仲を保つ意味でも重要です。モニターしてくれるって、それだけ愛されているんですよ。うっとうしいと思ったらあきまへん。奥様が、この人、最近ちょっと・・・と言い始めたら医師は奥様の話に耳を傾けるべきでしょう。再発の兆候に気づいたのかもしれません。

最近は、ネットに書き込む人も増えてますね。ブログでモニターしたことを書き込んでいく。BDの患者様同士がネットでつながり情報を提供し合い支え合うことにもなるでしょう。

なお、他の論文で、うつ症状の防止が社会機能を維持していく上で大切だという論文がありました。この↓の論文には、アストラ・ゼネカ(→セロクエル)やグラクソ・スミス・クライン(→ラミクタール。うつ病相の予防にはラミクタールが良いのだと国内でも治験中。)の資金提供を受けているドクターも入ってますが(汗;)。初回の躁病相の6ヶ月後のMSIFの変化を調べたところ、躁病相が寛解に達していないということ以外にも、6ヶ月後におけるうつ症状の程度がMSIFのスコアに相関していたとのことです。うつ症状が社会機能の回復を阻害してしまうようです。自己の症状をモニターしていく上で、うつに入っていないかを自分でモニターすることも重要でしょう。なお、この↓の論文では、薬物治療、入院したかどうか、躁病相の長さ、躁病相における精神病様症状の有無、不安の有無、自殺企図の有無に関しては、躁病相6か月後の社会機能との相関はなかったようです。入院しない方がいいに決まっていますが、入院したからといって社会的な機能は落ちませんからご安心を。

http://www.workingwithdepression.psychiatry.ubc.ca/files/2012/07/Kauer-SantAnna-Functional-outcomes-STOP-EM-Compr-Psyt-2009.pdf

3. プランを設定すること

プランにもいろいろあるようでして、日課表のようなスケジュール管理としてのプランから、再発した時の緊急時のプランなどがあります。特に再発しかけた時に自分を援助してくれる人物をリストアップして連絡先をプランの中に明記しておきましょう。プランは何かの際の迷った時の意思決定に役立ちます。このプランの設定で有名なものとしてWellness Recovery Action Plan (WRAP)というものがあります。↓にHPなどのURLを提示しておきましたのでご参照ください。緊急時のプランはお守りみたいなものさ。しっかり自己管理しているから、一度も使ったことがないよ。と言った患者様がいたとのことです。近い将来、スマートフォンのアプリにWRAPのアプリが登場するかもしれません。

(WRAPのHP)
Wellness Recovery Action Plan – Mary Ellen Copeland
Wellness Recovery Action Plan Mary Ellen Copeland
http://www1.ocn.ne.jp/~wrap_krm/whats_wrap.html

4. 内省して瞑想すること

太極拳やヨガ、そして瞑想は気分の安定につながります。日本人ならば座禅でしょうか。日記やブログを書くこともいいです。モニターの役割にもなります。日記を書くことが内省につながります。落ちこんだ時に、日記を書き、それを読み直してみると、これ以上悪いことは起きるまいと思うことができて、マイナス思考から抜け出し、解決策が見い出せるのですと述べた患者様もいます。マイナス思考から抜け出すこと。これは認知行動療法が目指すゴールでもあります。絵を描くこともいいでしょう。なお、瞑想は神経保護作用があり、さらに、神経新生を促し、加齢による脳容積の減少を防ぐだけでなく、灰白質の密度や容積を増やす効果があるという論文もあります(これについては、別の機会に触れてみたいと思います。)。なお、瞑想の仕方については専門の本を読んでください。

この瞑想に関連してマインドフルネスmindfulnessという心理的な事象も精神を安定に導く手段として注目されてきています。マインドフルネスはワーキングメモリの容量を改善するとも言われています。マインドフルネスは瞑想だけでなく、呼吸、音楽を聴いたり、家を掃除したり、着替えをするなども瞑想以外の行動も含まれます。呼吸と言えば以前に流行した自律訓練法を思い出します。自律訓練法は今ではすたれてしまいましたが、マインドフルネスの一つとして受け継がれたようです。マインドフルネスの自身の思考や感情を価値判断せずにあるがままに受け入れるということは、森田療法にも通じるものがあります。

マインドフルネス認知療法 – Wikipedia
Mindfulness – Wikipedia, the free encyclopedia
マインドフルネス:あるがままに受け止めて、、、: 心理学用語説明.com
Mindfulness Exercises For Everyday Life

5. 双極性障害を理解して他者に情報提供できるようになれること

本、新聞、インターネットなどで勉強してBDへの知識を得て理解を深めてください。BDに関する体験談を読むことも自助に役立つの1つの手段となります。体験談を読むことで様々なBDへの対処法があるのだと分かります。最近はネットのブログでBDの体験談を綴る患者様も増えています。そういったものに目を通すのもいいでしょう。BDのグループ活動に参加するのも良いでしょう。ミーティングへの参加も役に立ちます。いろんな体験を分かち合えます。こういった場で他のBDの方へ自分が理解したことや新しく得た知識をどんどん情報提供していってください。さらに自分が学んだことを家族や友人と分かち合ってください。あなたがより健常でいるためにいろいろとサポートしてくれる良き理解者となってくれることでしょう。

6. 他者と繋がっていること

自己管理は家族や友人や社会と繋がっていないと機能しません。友人達と会い、自分が今どうしているかコーヒーを飲みながら話したことは私にとって病相から回復する上で重要なことだったと述べた患者様もいました。特にいろんなサポートグループと繋がっておくことは重要でしょう。医療スタッフとの繋がりが重要なことは当然ですが、ボランティア活動に参加することによる地域社会との繋がりは大切です。孤立感や孤独感に陥らないためにも地域社会との繋がりは重要です。孤立感や孤独感を抱えていればうつへと向かってしまうでしょう。ボランティア活動で他者を助けることで自分も助けられることになり生活のバランスが保たれると述べた患者様もいます。日本では自治会や町内会といったところとの繋がりも大切でしょうか。都会ではそういった地域と繋がりを保つような古き良きシステムは形骸化してしまいましたが。

(おわり)

(1)~(6)までの項目は常識で考えてもそうだなと分かるようなことばかりではありますが、それらを意識して実践している患者様は少ないかもしれません。医師も患者も薬にばかり頼っていないか、もう一度見つめ直す必要があるかもしれません。自己管理は薬物療法以上に予後を左右するかもしれません。それに、瞑想やヨガなどは医療機関では指導することも治療に取り入れることも不可能です。自分で、瞑想の本を読んだり、ヨガの先生に教えてもらうことをお勧めします。

最後に、きついことを言わせてもらいますが、自己管理で一番大切なことは三日坊主で終わらないことかと思います(汗;)

(引用終わり)

皆さん、自己管理を頑張りましょう。

私もいま、毎朝同じ時刻に起床し、早めに仕事を始めて、ダイエットも軽い運動もはじめました。そしてなにより以前との大きな違いは、煙草をやめたことです。

Hiro Hayashi

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