頼り方

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事業を運営していくにあたって、さまざまな助成制度がある。

ゼロから事を起こすときにまず必要なものは人。それは自分。次に場。お金はとっても役に立つが、使い方次第で自滅を招くこともある。人の労力・場の提供・お金の提供。いかなる形であれ、他者の助けを受け入れるということについては、最も注意しなければならない。

世に何かを与えるために事業をはじめたのに、逆に世に頼る形になることは不本意なものだ。制度として確立しているもの(行政の支援など)にしろ、確立にしていないもの(自分で編み出したビジネスモデル)にしろ、受け取るものと与えるもののバランスは常に意識しておかないと、価値あるはずの事業がいつのまにか独りよがりで世にとって必要とされないものになってしまうリスクがある。

qube cafeにいつも来ていただいているM橋さんにお誘いいただいて、昨日、荒川区の地域活動サロン「ふらっと.フラット」の交流会に参加してきた。このような活動はどの地方自治体にもあるが、地域でさまざまなボランティア活動をしている個人や団体の方が54名出席した。

慈善事業や非営利活動はその点が明白だ。活動そのものに存続価値がなければ協力者も参加者もいなくなるし、自然消滅するしかない。ところが世の中には残念ながら助成金があって初めて成り立つような非営利団体もある。そうなると果たしてその活動は本来の目的を達成するためにあるのか、それとも助成金が目当てなのかわからなくなってしまう。

例えば世の中には就労支援施設というものがある。こちらで障害認定された人を雇用したり就労支援したりすると、国から助成金が出る。この助成金の目的はあくまで就労支援だということに着目したい。つまり就労支援施設で安い賃金で働かせ続けることは本来の意義ではない。就労先の紹介、就労に必要な技術や社会性獲得の支援つまり教育、就労先の開拓などに使うことで、自立困難な課題を抱えた人がひとりでも多く自立して生きていけるよう支援することに対して支払われる助成金だ。

毎日同じ簡単な作業を繰り返しても、小銭は稼げるし助成金も出るが、誰も自立できるようにはならない。障害を持った方々にはいろんな課題がある。ひとくくりに「知的障害者・精神障害者・身体障害者」とすることは不可能で、たとえば知的活動における問題ひとつとっても、演繹や帰納のような理屈の理解、教えられたことを覚える記憶、正しいかどうかを判断する力、危険予測、業務管理、さまざまな点で得意・不得意を個々に判別できなければ、答えは出ない。こうしたことをマニュアル化しようとしても、形式的で意味のない無駄なプロセスが増えてしまうだけだ。

事業の助成を受けることが是か非かという話をするときには、だれが・いつ・どこで・なんのために・どのような助成を・どうやって受け取るのかについてきちんと検討することがとても重要だ。

もらえるものはもらってから考えようの根底には「もらって損することはないはず」という謎理論がある。これは間違いで、実はもらうことにより組織にとって致命的な崩壊を生んでしまうことがある。

助成金も投資も同じだ。クラウドファンディングもスタイルが違うだけで同じことだ。出す側が違っても受け取る側は「何かをするための助成を異なる形で受け取っている」という点が同じだ。

また別の視点で書いておくと、しがらみは漢字で書くと「柵」だ。これがわたしたちの祖先が長い時間をかけて得た経験から残された知だ。

相手が誰であるかは関係なく、自分または自分の組織が、それ以外からどれだけの「借り」を作っているかは、金額という数字だけでは測れない。この「借り」がどうして重要かというと、これは知的活動において必ず存在する「無意識」に影響するからだ。わたしたちは無意識の影響を常に受けている。

畳縁の上や道路の白線の上は問題なく踏み外さずに走れるのに、高い塀のへりや平均台の上を同じように走れないのは、頭でどう思い込もうとしても無意識があなたをコントロールしているからだ。これは生存本能と深く関連していて、理屈で制御はできない。

他者から何を「借り」、何を「貸す」かを考えていると、包括的にはその活動はプラスマイナスゼロで何も価値を残さない。

価値を残していくのならば、何を「借りない」、何を「貸さない」かについて検討する必要がある。そこを深く考えていけば自ずと「いただく」「与える」とは何かについて考え、自分なりの答えを持つことができるようになる。

「貸し」「借り」「もらう」「あげる」「与える」というシチュエーションは日々よく起きることだ。これらのキーワードに関わる行動によって、その人がどのような物事の捉え方をしているのかがよくわかる。対価についてその価値を与えた相手にのみフォーカスしていると、全体を見失う。また、所有という概念がいったい人間にとってどのようなメリット・デメリットをもたらしてきたのかについて考えるきっかけを得ることができるだろう。

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