この街に帰ってきたのは、とても久しぶりだ。
どれくらいかって、よく覚えてないけど、何年ぶりだろう。
街は以前と何も変わっていなかった。
この街では俺がいない間、いったいどれくらいの時間が経過したのだろう。
大きなデパートも、それを取り巻くような繁華街も、そのままだった。
デパートの入り口を入ると、吹き抜けでガラス天井の大きなフードコートがあって、白い格子状の四角いフレーム。
デパートの奥は深いことを知ってた。
エレベーターを降りていくつもの販売コーナーを抜けてエスカレーターを降り、廊下を抜けて、また別のコーナーを抜けていけば、地下鉄の乗り場がある。
地下鉄は、雪の積もったなつかしい場所にも通じているし、丸の内線のように地上に出て、明るい山の景色が見える駅にも通じている。
また、別の方向へ行けば、暗い地下道とわけのわからない緑に光るものを生産している地下工場があることも知っていた。
時間が飛ぶ。
広い道。広場のような道。ゆるい下りの坂道になってる。
両脇には商店だか家屋だかわからない建物が並んでたけど、どれもひっそりとしていた。
道の真ん中で、みんながまるくなって、手をつないでる。
それ以外には人も車もいない。
人の輪を俺は傍から見ていた。
躊躇う俺のために、輪をあける人たち。
輪には、知ってる人がみんないた。家族も、いままで会った人たち、みんないた。
男女交互に、手をつないで、大きな輪をつくっていた。
大きすぎて、反対側にいる人たちの顔は識別できない。でも、知っている人だとわかってた。
右手にはインド人の若い女性。知らない人だけど、安心感があった。やわらかくて、しっとりと温かい手。手のひらの白さが鮮明だった。
左手には白人の中年の女性。ホストマザーのLeeのようなひと。背が高くて、薄い金髪で巻き毛を長く伸ばしてて、眼鏡をかけていたかもしれない。
みんなが一緒になって、ぐるぐると、まわる、まわる。
まわりながら、広い坂道をくだる。メリーゴーランドのように。
なんだかよくわからない状況だけど、とても幸せな気分だった。
みんなが唐突に、言った。
「幅跳びして!」
何度も繰り返して言った。
「幅跳び、して!」
なぜ突然幅跳びなのかなんて疑問は、なぜか感じなかった。
疑問の余地なく、幅跳びをするんだ、と思った。
「幅跳びして、幅跳び!」
俺はつないでいた両手を離すと、全速力で坂を下り、地面を蹴った。けれどうまく跳べなかった。
「幅跳びして、もっと!」
俺は走り続けた。重力が軽く感じられた。坂のせいか、なにか不思議な力のせいか、体は羽のように軽かった。
全力なんだけど、ストロークがとても長い。体が軽いせいだ。
何度やってもうまく飛び上がれなかった。軽すぎて、地面もうまく蹴ることができない感じ。
「幅跳びして!」
誰かが叫んだ。
俺は渾身の力を込めて、地面を蹴った。
跳んだ。
その瞬間、風を切り宙を舞う快感とともに、ベッドの中で思いっきり力を込めて蹴りだした自分の脚に驚きながら、目を覚ました。
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