キャズムは越えようとしたらあかんでしょ

下り方向のキャズム越えは、ビジネス的な成功の必須条件。とくにコンシューマ・ビジネスにおいては欠かせない要素といわれている。しかし今回ここで、異を唱えたい。

キャズムとは何か

これは社会学者エヴェリット・ロジャースによって1962年に「Diffusion of Innovation」という著書で提唱された普及モデルだ。マーケティングの世界ではイノベーター理論と呼ばれることも多い。

イノベーター(Innovators)がリスクをとって、新しいアイデアや技術を最初に採用する。
次に、アーリーアダプター(Early Adopters)が「オピニオンリーダー」として採用する・・・
みたいな感じに、左から右へと普及の波が進んでいく。

ここで大事なのは、これは「新しいアイデアや技術が社会になぜ普及したり、しなかったりするのかを説明しようとする理論」だということ。

これを逆手にとって、イノベーター理論を利用して商業的な成功の話をしようとするマーケッターが多いが、それはちょっと違う。

上図における Early Adopters(13.5%)とEarly Majority(34%)の間に深い溝があり、これをキャズムという。この分水嶺を越えることができるかどうかで、普及するかしないかが決まると言われている。

キャズム越えについて一般的には、上図の左から右に越えていく話。つまり普及するかしないかについて語られている。

なにがあかんのか

ここで主張したいことは、3点ある。

  1. 左から右に越えさせようとしてはいけない
  2. 右から左に越えてみようぜ
  3. この理論は古すぎてかなりカビ臭い

左から右に越えさせようとしてはいけない

普及を意識した商品があまりにも多く、大量消費の格好の的である。資源と消費のバランスは乱れ、依存ビジネスが横行し、射幸心まで持ち出す始末だ。イノベーター理論とはその名の通り、イノベーション(革新)に関する理論だ。

たとえばあなたが革新的なアイデアや技術をもっていたとしても、それがあなたであるかどうかはこの理論にとってはどうでもいいこと。

あなたや企業が「革新的と思う」そのアイデアや技術は、いずれ社会に出るわけだ。商品やサービスという形で出ることが多いかな。多くの人が営利団体にいるから。

試されるのは、アイデアや技術そのものだ。マーケティングは、そのアイデアや技術そのものを世に知らしめるために存在するのであって、誇大広告するためではない。「こんなアイデアで作ってみたんやけど、どうかね?」と。評価するのは市場であり、あなたは市場に対して「売れるマーケティング」をするよりもむしろ「アイデアとその実現化方法」を具体的かつ正確に世の中にお伝えするのがミッションである。

「キャズムを越える攻略法」とか語ってる人は偽物だから相手にしないほうがいい。キャズムを越えるかどうかはアイデアそのものの革新性が試されているだけだ。つまりイノベーションそのものの価値が社会で試されている。攻略によって越えるキャズムはない。越えたように見えるものはイノベーションではなく、売上だ。
その攻略をマーケティング活動の一部だと勘違いした活動をマーケティングと呼ぶのは、マーケティングに対する冒涜であり、自らのプロフェッショナリズムを冒涜していることになるからやめておいたほうがいいと思う。

右から左に超えてみようぜ

右から左に越えるというのは、極端にいえばラガードがイノベーターになるにはどうするか? ということだ。

たとえば昨今話題の「サブスクリプション」がある。「定額制」などと訳されているが、これに違和感を覚えない人は、レイトマジョリティあるいはラガードなのだ。

いまやテレビでも毎日のように紹介されている「月額定額制サービス」。こんなものに革新性があるかというと、もう既に古いわけです。

イノベーター理論においてInnovator以外はすべて、左に倣え。じゃあ自分が倣ってるのはどこ? テレビに倣っている? 遅い。じゃあもっと速くするとなにかいいことがあるかというと、革新的アイデアの革新性がまだあるうちに色々できるから先駆者に近づく。そのかわりリスクもある。このリスクがとれないからこそ、今の立ち位置にいるわけです。

この理論は古すぎてかなりカビ臭い

半世紀も前の理論であり、いまの情報化を前提としたものではないということ。

だいたいイノベーションを普及させるという考え方が古い。洗脳ビジネス的な要素が受け入れがたい。日本ではまだ通用しちゃうのが島国だなあって思うけど、いずれ廃れるのは先進国を見れば明らかだ。

普及方法よりも、イノベーションそのものの価値が純粋に問われるいい時代になりつつあるのに、現代日本社会はそこに対して無駄な抵抗を続けてきた。それが日本の「失われた20年」であることは既にあちこちで明らかになっているのに。

イノベーター ≠ ビジネス成功者

イノベーターは、正直いって思いついたアイデアや技術が売れるかどうかなんて二の次にしか考えてない。

売れてなんぼとか、売れなきゃ結果を出したといえないとか言ってる連中は、決してイノベーターにはなれない。市場に媚びてるうちは、市場をあっと言わせるようなアイデアが出るわけがないから。

イノベーションしたものが売れるまで面倒を見るのが好きな人は、イノベーターとしてではなくビジネスパーソンとして著名になってる。でもイノベーションが好きならば、売れるかどうかは世の中のそういうことが好きな誰かさんに任せて、次のイノベーションに思いを馳せる。それを可能にするのが組織です。

イノベーターにとっては、そのために組織があるといってよい。イノベーションを普及させるまでの工程を任せられる組織。ジョブズにとって、アップルがそうだったように。ジョブズが半田ごてを使って製品を組み上げていたのは、黎明期のガレージの中だけの話だ。それはイノベーターであることを世に証明するために必要だから仕方なくやっただけのことだ。