久しぶりに明晰夢をみた。
すごく高いマンションの一室にいる。
天井は高く、全ての部屋に清々しい陽光が差し込む。壁は所々が石のブロックやテラコッタのような明るい焼き物のタイルで、壁紙という感じではない。
ダイニングは20畳くらいある四角い部屋で、壁の一面はキッチンになっており、別の一面には食器棚などが並べられるようになっている。
僕はしばらくそこに住んでいたようだ。家具などの内装に無頓着だったのか、夢の中では模様替えなのか、あるいは家具の搬入なのかよくわからないけど、家具の再配置のような作業が進んでいた。
僕が作業していたのではない。
作業服を着た引っ越し屋さんのような人たちがたくさんいて、各々カーテンを付けたり家具を移動したりしてる。
僕の横には母と、秘書のようなすらっとして頭の良さそうな女性がいる。
その女性が言う。全て順調で計画通りだから、安心して好きなことをしててくださいと。
僕はありがとうと返事をする。
母が言う。しかし驚きよねぇ、こんなに素敵な部屋で家賃が前の家より安いなんて。こんなこと普通じゃありえないわよと。
そうだ、僕はこんなに素敵な部屋をびっくりするような安い価格で借りてたんだっけ。普段あまりお金のことを考えないから、忘れてた。ありがたいことだ。
作業をしている方が運んでるソファや棚やカーテンなどは、全て年季の入ったものばかりだ。どこのアンティークだろうと思うようなどっしりとした棚がいくつかお揃いでセットになっているのをダイニングに並べている職人さんが、背が高いから上に注意して運ぶように若い子たちに指示しながら、本人も大きな棚を運んでる。
こんな仰々しい物がこのモダンな部屋に合うのだろうかと思って眺めているのだが、あるべき場所に収まるとその家具は、そこに置かれるために生まれてきたかのようにしっくりと収まるのだ。
僕は嬉しくなって、ダイニングと続きになっているリビングに移動して他の作業も眺めることにした。人はたくさんいるのに、とてもゆったりとした時間だ。
知ってる人は母しかいないのに、僕は秘書の方だけでなく作業員の一人ひとりに知られているらしい。みんなとてもいい笑顔で、冗談を言い合いながらせっせと作業をしている。
誰かが冗談を言うと、周りの人がどっと笑う。ひとり、太った作業員の方が僕に話しかけてきた。喋るのが苦手らしく、何を言っているのかうまく理解できなかった。でも夢の中の僕はその方のことがとても愛おしくなり、肩を優しくポンポンと叩いて微笑んだ。
母が言った。あら、ベランダからの景色、素敵じゃない。僕は、え、ほんと? と答える。すると母は、まったくもう、あんたここに住んで結構経つのに、ベランダから外も見てなかったの、と苦笑する。
ベランダに出ると、圧巻だった。
この世のものとは思えないような壮大な高層ビルが数棟、僕のいるビルと同じくらいの高さまで迫っている。他にも超高層ビルがたくさんあるが、全て眼下だ。ビルは雲を突き抜けるほど高い。
少し遠くに目を移すと、エメラルドグリーンの海が彼方まで続き、その手前には真っ白な砂浜が横に広がっていた。
目も眩むような高さだけど、不思議と不安感は少しもなかった。
こんなに素敵な部屋がこの世にあるなんて、びっくりだ。僕は高層マンションには住まないと決めていたのに、こんな部屋なら自分が選んでしまったのもわかる。
リビングから広いベランダに、にゃーちゃんが歩いて出てきた。その後ろから小さい犬が数匹ついてきて、ベランダで駆け回っている。プードル、、ダックス、、見覚えがあるけど、まさかそんなはずがない。でもそっくりだ。
空は神々しく、限りなく白に近い色に輝いている。部屋の中は隅々まで明るく、聖域のようなスッとした感覚がある。
リビングに戻ると、ボロボロのソファがまだ、配置されるのを待って部屋の一角にあった。なつかしい。このソファにも思い出がある。
みんなここにきてくれたんだね。
部屋の中から見る外の景色も美しかった。こんな美しい景色を友達にも見せてあげたい、LINEで送ろうと思って、僕はiPhoneを取り出した。でもベランダの壁がとても厚みがあるしっかりしたもので、手を伸ばしても眼下の写真が撮れない。
しばらく見回していると、キラリ、キラリと、なぜか眼下を上から見下ろす映像が見える時がある。
どこだ?何が起きてるのだ?と、その映像が見えるところを探す。
あった。
ベランダの天井の方に、磨き抜かれたステンレスのような部分があり、それがうまく眼下の景色を反射しているのだ。
まるで鏡のように磨き抜かれたそれは、くっきりと、周囲のビルの頭を上から見下ろした絵を反射していた。その下に広がる雲海や、雲の隙間から垣間見える地上の緑。そして砂浜と海。
僕はこの感動的な景色が一番伝わる角度を探して、ここだと決めてシャッターを押す。
その瞬間、目が覚めた。
ここまで書いて思い至った。このマンションの夢、初めてじゃないぞ。
8年くらい前にもみた。その時も目が覚めるその瞬間までそこにいたと思えるほど明晰で、画用紙にその夢のシーンを描こうとしたけどうまく描けなくてやめたんだった。
さらに思い出した。その前にもみてる。その時は部屋の中じゃなくて、長い廊下を歩いてた。廊下側の眼下には深い森がずっと遠くの山まで続いてた。森の木々の上には朝霧のような靄がかかっていて、神秘的だった。
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