メンターと疎外感と

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来年度入社予定の学生さんが3人ほど、インターンとして週に何回か会社にきています。

僕は今週、インターンのひとりである愛知の大学院に通っているO君のメンターをしています。

O君は1週間で愛知に帰ってしまうのでこれが終わったら次に会うのは来年の4月ということになります。いまは藤沢にあるウィークリーマンションに寝泊まりしています。

自分のせいでこの会社が嫌いになってもらっては困るし、O君にとっても生まれて初めて社会人を体験する(バイトの経験はあるようですが)貴重な場ですから、引き受けた以上メンターという立場は責任重大です。そして、復職したばかりの僕にそんな大役を任せてくれた私の上司には頭の下がる思いです。O君にはぜひ、来年度から一緒に働くことに大きな期待を持ってインターンを修了してもらいたいと思います。

ところで、メンターを引き受けたとき最初に思ったのは、「僕でいいの?」でした。

これは何かコンプレックスのようなものなのでしょうか。自分は他の社員と比べて劣等感を持っているようなのです。(自分のことなのに「ようなのです」なんて書くのはちょっと変な感じがしますが、自覚していなかったのでまさにそんな感じなのです)

それについてちょっと考えてみると、考えられる理由がいくつかありました。

もちろん休職していたということもあります。

僕はこの業界に入ってからずっと、特に20代の間は、正社員になるということに強い執着心を持っていました。とても良い会社に巡り会ったのですが、それは正社員としてではなく、個人事業主として業務委託という形でお仕事のパートナーの関係でした。

仲良くなった同世代の正社員もいましたが、仕事に対する緊張感や焦燥感は、何か決定的に違うものがありました。

業務を委託してもらうということには、非常に強い責任感が求められますし、仕事の成果に対する評価も当然厳しいのです。正社員で同世代の人たちは仕事で失敗しても、人を育てるというコンセプトで上司や先輩から指導されたり怒られたりしていました。しかし委託や派遣のスタッフを、会社は育てようとは思いません。たくさんの人が同じような失敗で仕事を切られ、去っていきました。もちろん僕が切られてしまったことだって少なからずあります。

正社員になるということに深いこだわりをもっていたことは、今となってみれば非常に不思議なことです。とくに僕がいまいる業界では正社員だからといって終身雇用が保証されるようなことは全くありませんし、メリットはごくわずかだと思います。もちろんデメリットもあります。正社員になりたかった理由はただひとつ、創造的な役割を担うにはやっぱり正社員になるしかないという持論でした。(本当はそんなこと関係ないと思います)

今の僕は正社員で、後輩になろうとしているフレッシュマンを指導する立場にいます。

僕のプロ意識に対する考え方は、ある会社で生え抜きの経験がある人とは、かなり違ったものだと思います。そんな自分に新人を任せてしまって本当に良いのだろうかという疑問が常にあります。

また、僕には学がありません。

小手先だけで成績がとれた高校入試まで、僕はどちらかというと優等生の部類で、高校も県下でトップクラスでした。しかし勉強が嫌いだったので、クラスメートたちがどんどん有名一流大学へ進学していく中で僕は、流されるように、消去法的に、なんとなく、どうでもいい大学のどうでもいい学部へ入学し、そして大学への期待が幻想で甘えであるということに気がついたときにはもう後戻りできない状態で、大学3年生を迎えることなく中退したのです。

いまの会社の上司や先輩や同僚たちはみんな良い大学を出ているし、インターンの人たちはみんな修士や博士の過程にいます。これは、学歴のない人にしか多分わからないコンプレックスです。

しかしこうした疎外感は、僕のエネルギー源でもあります。

IT技術者のメンターというもので、会社の予定しているカリキュラムはおおむね以下のようなものです。

  • 実践的なプログラミングを体験させる
  • 自社製品(うちのソフトは海外製品)のローカライズを体験させる

でも僕は、そんなことはどうでもいいことだと思っています。

誰でもインターネットで検索したり、アマゾンで本を買えばそんなプログラムはできるようになるし、実務なんてOJTで問題なしです。

大事なのは、人と人、だと思います。

どのようにして困難を切り抜けるか。心の痛みや優しさや思いやりやエゴやその他様々な気持ちが容赦なくぶつかりあう社会という荒波を、どうやって乗り越えていくのか。

そして自分はいったいどこへ向かおうとしているのか。

そういったことを本人が本気で考えだすきっかけのようなものを作ってあげたいのです。たぶんインターンの短い期間でそんなことは無理なのですが。

ところで話は変わりますが、今日は嬉しいことがひとつありました。

休職前に携わっていたプロジェクトへの復帰が決まりました。

嬉しかったのは復帰することではなく、復帰する理由です。(前からですが)今プロジェクトは座礁しかかっていて、取引先のプロジェクトマネージャの方と、インドにあるうちの会社の開発チームのプロジェクトマネージャをやっている方の両方から、プロジェクトに戻ってほしいと強い要望があったとのことです。その話を上司から聞いたとき、ちょっと泣きそうになりました。

突然の休職によってプロジェクトには大変な迷惑をかけていたにもかかわらず、復帰してほしいなんて言ってもらえるのは、それまで頑張ってきた自分をちょっと褒めてあげてもいいかな、なんて思ってしまいました。ささやかな喜びです。

もちろん、断る理由はありません。また海外と日本を行ったり来たりすることになりそうです。

会社の人はみんな僕の体調を心配してくれていますが、心が満たされていて、睡眠がとれていれば何も心配はないのでした。

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