某SNSのIT業界関連のコミュニティに参加しているのですが、そこの掲示板で「オフショア開発」について話題が沸騰していました。
これはもう自分のためにあるようなトピックなので興味深く皆さんの意見を読んでいたのですが、オフショアリングの現場にいる自分と、オフショアリングをWebや雑誌などの情報でしか知らない技術者の間には、いまだに大きな認識の違いがあるということに気が付きました。
インドでのオフショア開発にコスト的なメリット「だけ」を求めることは、既に大きな間違いです。
ただ、完全に間違いというわけでもありません。
これを理解するには、インドの人口を頭でなく体で理解することです。
インドの人口は10億人以上。日本の10倍です。その中でいちばん注目されている産業が、ソフトウェアです。ものすごい数のエンジニアがいるわけです。
中には世界トップレベルのエンジニアもいれば、まだまだ駆け出しの、安い賃金でバリバリ働いてくれるエンジニアも大勢いるわけです。
彼らの強みは、ビジネススタイルを欧米にならっているところです。
つまり日本の多くのIT企業と比較して、分業とレスポンシビリティのスタイルがきっちりと企業の体制として確立しています。ですから初級エンジニアは、初級エンジニアにできる作業を、上級エンジニアは、上級エンジニアとしての責務に集中できるという仕組みを持っています。
そしてひとつのプロジェクトチームには、上級から初級までさまざまなレベルのエンジニアが携わっており、彼ら全員がひとつの機能になるわけです。だから、安いエンジニアだけ使いたいとか、技術の高いエンジニアだけ安く使いたいというのは所詮無理な話です。
彼らの技術レベルは既に欧米のマーケットで認められており、アメリカをはじめとする欧米企業でインドとの関わりが長いところは、すでに彼らを安いだけの労働力とはみなしていません。
これが日本にどういう影響を与えるかというと、インドでトップレベルのエンジニアは欧米企業相手のプロジェクトにおいて引っ張りだこな状態なので、契約条件の悪い日本のプロジェクトにトップエンジニアが割り当てられるでしょうか、ということです。それは非常に難しいということです。
買い叩かれた安い契約には、それなりのエンジニアしか割り当てられないのです。
それがまた最近では変わってきています。
欧米のマーケットにおけるインドIT企業のシェアは既に飽和状態にあり、GNP世界第二位である日本の市場が新たな開拓先として注目されています。ですから、市場に食い込むためには多少条件の悪い契約であっても、今後のビジネスにつなげていくためにそれを呑んで、ゴーサインが出る場合があります。そしてこのような場合、もちろん最初のプロジェクトの成功が今後のビジネスに大きな影響を与えるわけですから、レベルの高いエンジニアを赤字覚悟でアサインするケースが少なからずあります。
企業によっては、日本市場向けにエンジニアを育成もしています。日本語教育、日本文化の教育コースなどを独自に設け、徹底的に日本について学んだインド人エンジニアを育て上げるのです。これが現時点で功を奏しているかどうかについてはいま言及しませんが、近い将来、結果として現れてくるでしょう。
このようなケースで契約金額が安い場合、日本企業は注意すべき点があります。
国内のビジネスパートナー(いわゆる「外注」と呼ばれている下請け企業)と同じように厳しい契約条件をインド企業に対して継続的に押し付けようとしても、それは無理だということです。
先述のように、顧客開拓だからこそ安い契約で上級のエンジニアをつけているわけで、それが慢性化してしまえば高いエンジニアをアサインし続けてまでビジネスを継続するメリットがインド側にとってなくなります。そうすると初中級エンジニアがアサインされてプロジェクトに火がつくか、ビジネスが継続できなくなるといった悪い結果しか想像できません。
日本は、世界標準のビジネスの進め方に一刻も早く合わせなければならない。
ニアショアという言葉に逃げている日本企業が増えています。
(ニアショアとは、国内でも平均賃金が低めの地方に仕事を回すことをいいます)
とくに沖縄県や北海道が注目されています。沖縄は若い人が多く失業率も高いからです。都心のエンジニアよりも安い日本人リソースがまだ国内にあるわけです。
知人や元同僚たちの話を聞いていると、ニアショアによるコストダウンには限界が見えはじめているということです。
世界市場への躍進を狙っている日本のIT企業の多くは、ライバルとなる欧米のIT企業を見て、インドやベトナムや東欧や中近東のオフショアリングに支えられて強力なビジネスモデルのパワーと対峙しなければなりません。
欧米企業と対等に渡り合うためには、インド企業と欧米企業がどのようにしてうまく協力しあうことができるようになったのか、その経験や実績を学ぶ必要があります。
言語の壁とか言ってる場合ではないですし。
日本独自の商習慣にインドが一方的にあわせるというスタイルではどうにもなりません。
いま多くの国内大手IT企業にとって、インド、ベトナムなどへのオフショアリングはひとつのチャレンジになっています。成功例はほとんどない、というよりも成功ノウハウはなかなか外に出てきません。各企業で失敗を繰り返しモノにするところと、諦めてしまうところがあるだけです。諦めるという判断が正しいかどうか、近い将来にわかるかもしれませんね。
また、ビジネスの国境がなくなった今、国内の多くの企業は島国根性(鎖国性?)に守られていると言えるでしょう。自分たちのメリットをどのように打ち出していくか真剣に考えなければ、お国の財布に頼らないと生き残れないことになります。
厳しい状況です。しかし今も「オフショア=コストダウン」という認識が蔓延っていますね。
インド人のIT関係者と毎日一緒に仕事をしていると、危機感をもたざるを得ません。
彼らはまだ洗練されたサービスを日本へ提供できていないかもしれませんが、それも時間の問題だと思います。
最終的には彼らも日本に溶け込み、自分が今やっている仕事(ブリッジエンジニアリング)は不要な時代になるのでしょう。
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